第92話

高校生だったのが、10年も前だったなんて信じられない。

今になって、どうして高校生の頃を夢に見たのだろう。


ベッドから出ると、いつものようにパソコンの電源ボタンを押して立ち上げる。

まだ寝ぼけている頭を起動させるべく、熱々のコーヒーを飲むのが日課になりつつある。


パソコンに戻り、インターネットに繋ぐと、メールボックスを確認。

応募したコンテストの結果メールが届いてないか見る為だ。


今日もどうせきてはいないだろう。

諦めにも似た皮肉。


卒業してからは、叔父の本屋さんの手伝いをしながら、ぼちぼち小説を書いていた。

本屋さんと言っても、うちは古書が多く、ややマニアックなお客さんが多い。

若者から年配の方まで、幅広い客層が、毎日変わるがわるやってくる。


たまに男性客から声を掛けられる事もあったが、叔父がすぐに出てきて対応してくれた。

あたしが言うのもあれだが、叔父は『少々』強面で、声が低くがたいもいい。

そんな叔父に睨まれたりしたら、根性が座ってない人は一目散に逃げ出すのがパターンだ。


頻繁にお客がいる訳ではないので、仕事が一段落すると、お金を貯めて買ったタブレットを取り出し、執筆作業をしたり。

叔父にはあたしが小説を書いている事を告げてある。

笑われるかと思ったが、頑張れよと応援してくれたのがありがたかった。


そんな生活が10年も続いたのだから、時間の流れというものの無情さを思い知る。

あたしもいよいよアラサーか。

あまり実感がないのも不思議なものだが。


話を今に戻す。

パソコンの画面を見ながら、淹れたてのコーヒーを一口啜る。

程よい苦みが口に広がり、飲み込むとゆっくりと胃の中が温まっていった。


受信トレイに(2)と表示されていた。

大体は迷惑メールばかり。

期待をするだけ野暮なのは、嫌でも解っている。


二口目のコーヒーを味わいながらトレイを開くと、何処かで見た事のある社名が。

はて、この社名は何だったけ。

まだ寝ぼけたままの頭を、なんとか回転させる。


そうだ、有名な出版社の名前じゃないか。

急に頭がクリアになっていく。

瞬きをするのも忘れながら、そのメールをクリックした。

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