第91話

今日の夕方に、あたし、彼女、高橋さん、宮本さんの4人で我が家で卒業祝いをする事になっている。

うちを使っていいかと母親に相談したら、満面の笑みで了承してくれた。


あたしも仕度を終えると、クラスを出て彼女がいるクラスへ足を運ぶ。

人だかりが出来ていて、そこに彼女がいると解るまでに、時間は然程必要なかった。


「あ、舞!」


彼女の声がクラスに響く。

それまで彼女を取り囲んでいた人達の動きが止まる。


「今仕度するから待ってて」


リュックを取り出し、荷物を詰めていく。

あたしは彼女をぼんやりと見つめながら待つ。


「お待たせ」


リュックを片方の肩に掛け、あたしの元にやってきた彼女は、あたしの左手を掴み、そのまま手を繋ぐ。

一瞬の出来事に動揺するあたしをよそに、彼女は「じゃあ、またね」

クラスにいた人、全員に聞こえるくらいの声を挙げ、あたしの手を引きながら教室を後にした。


手を繋いだままなもんだから、そこら辺にいた人達の視線を、嫌でも独占状態だ。

しかし彼女はお構いなしに、むしろ堂々と歩いている。


正門の左右には、大きな桜の木があり、風が吹くと美しくも儚い花びらが綺麗に舞う。

このままずっと見ていたくなるくらい綺麗で、切り取って部屋に飾れたらいいのになんて思ってしまった。


「お祝い、楽しみだね。

 舞のお母さんの料理も美味いから、思い切りお腹空かせていかなきゃ」


笑いながら、彼女はそんな事を無邪気に言う。


「あっという間に卒業だったね。

 この1年は、特に楽しかったな」


彼女の言葉に、あたしは首を縦に振る。


「あたしも凄く楽しかった」


しみじみと思い返せば、どんな時にも彼女がいた。

あたしの思い出の1つ1つは、彼女なしではこんなに輝きはしないだろう。


「この幸せは、これからも続いていくんだね」


胸に刺さる、温かな彼女の言葉。


「ここからが始まりだ」


そう、新しいステージの始まり。


「頑張り過ぎない事を頑張ろう」


彼女らしい言葉が、あたしの背中をポンと押す。


どちらともなく駅へと歩き出し、ほどなくして駅に到着する。


「それじゃあ、また後でね」


ホームで彼女と別れ、電車に乗り込んだ。


卒業おめでとうパーティーは、ただひたすらに楽しく、時間が経つのはあっという間だった。

終始笑いっぱなしで、ずっとお腹と頬が痛かった。


母親はあたし達の様子を、楽しそうに眺め、時々一緒に笑ったり、話に参加したり。

さながら、女子会とやらは、こんな感じなのかなと思った。


3人はそのままうちに泊まる事になり、狭いあたしの部屋で寝る事に。

彼女はあたしとベッドで、高橋さん達は布団で眠った。


騒がしい1日は、高校生活はこうして幕を下ろしたのだった。

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