第93話
まともに髪の毛の手入れをしたのは、果たしていつぶりだっただろうか。
定期的に散髪をしたりはしていたけど、じっくりヘアパックなんかもしたのは…何年ぶりだろう。
肩甲骨辺りまで伸びた髪を、10cmくらい切った。
風に揺れる髪が軽い。
美容室を後にすると、そのまま駅前のショッピングモールに行き、小綺麗な服を選んで購入してから帰宅。
のんびりはしていられない。
約束の時間までまだ些か余裕はあるが、さっさと仕度をしなければ。
丁寧に顔に化粧を施し、先程買った服に着替える。
靴は…そうだ、前に買ったけど履かずに箱にしまったままのヒールがあるから、それを履いて行こう。
この服装にも合うだろう。
彼女に逢うのは、1ヶ月ぶりだ。
あたしがバタバタしていて、時間を作る事が出来なかった。
彼女はあたしを解ってくれているので、文句1つ言わずにいてくれた、彼女の優しさには本当に感謝しているし、頭が下がる思いでいっぱいだ。
彼女にはまだ伝えていない。
もしかしたら、察しているかもしれない。
彼女に逢うまでは解らない。
ずっとずっと、待たせてしまった。
ずっとずっと、待っていてくれた。
何から何まで、あたしは彼女にもたれ掛かり過ぎていた。
やっと胸を張れる。
肩書きが付くようになるのだ。
長かった。
ここまで辿り着くまでに、こんなに時間がかかってしまった。
諦めようとした事は、勿論何度もある。
自分には才能はないと、どれだけ溜め息をついたのかすら解らない。
それでも、彼女が支えてくれた。
弱いあたしを見捨てる事なく、あの頃と変わらず、あたしの背中をポンっと押してくれた。
彼女だけではない。
高橋さんも宮本さんも、あたしを支えてくれた。
温かな人達の優しさがあったからこそ、あたしはここまで来る事が出来たのだ。
素敵な恋人、友達がいてくれた事が、心から嬉しくもあり、誇りに思う。
ーあたし1人の力では、到底乗り越える事は出来なかったー
小さな小さな種は土の中で眠ったままだったけど、芽が出て陽を浴び、時には冷たい雨に打たれながらも、ゆっくりと成長していき、長い長い時間をかけ、やっと花を咲かす事が出来た。
こんな嬉しい事はないだろう。
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