第86話

時の流れは早い。

そう思えるくらい、とても充実した学生生活も、もうすぐ終わりを告げる。


もう少し…もう少しだけみんなと過ごしたい。

何度そう思っただろう。


彼女達と学生生活を楽しみたい。

もっといろんな事をしたい。

学校とも友達とも疎遠だったあたしが、こんな事を思うなんて、夢にも思わなかったし自分が1番驚いた。


そう思えるくらい、とても楽しかった。

学生生活の最後が、心から楽しくて幸せなものになったのが、とても嬉しかった。

終わってほしくない。

しかし、嫌でも終わりは訪れるものだから…。


これから学校という世界を後にし、社会という世界に飛び込む。

自分の持てる武器も防具もなく、裸のまま飛び込むのだから心もとない。


上手くやっていけるだろうか。

自分に適応力があるとは思えない。

自力で踏ん張り、気持ちを奮い立てながら、日々生きていかなくては。


そんなあたしに、高橋さんは「そんなに気張らなくても、ま~ちゃんなら大丈夫だよ」と言ってくれた。

冬休みが明け、学校が始まってから少し経ったある日の学校帰り。

珍しく高橋さんと2人で帰った時の事だった。


どちらかと言えばあたしはネガティブだが、高橋さんはやわらかなポジティブというか。

あたしの話も聞いてくれて、的確な言葉をくれて。

そんな高橋さんに、いつも救われている。


「ま~ちゃんは頑張り屋さんだからなあ。

 なんでもかんでも、自分でやる必要はないんだよ。

 出来ない時は出来ないって叫んで、周りにアピールするのもあり。

 どうしても向き合いたくない時は、無理に向き合う必要もない。

 自分の気持ちが落ち着いたら、改めて向き合えばいいんだよ。

 改めて向き合った時の方が、案外上手くいく事の方が多い気がする。

 余裕があるのとないのでは、全然違うじゃない?

 早く解決しなきゃと、そういうのは思わないでいいんだよ。

 ほら、焦りは禁物っていうじゃない?」


欲しい言葉をくれる。

背中を押してくれる。

高橋さんの優しさは温かく、あたしのちっぽけな不安でさえ抱き締めてくれる。

彼女とは違う優しさが好きだ。


あたしには勿体ないくらい、素敵な友人。

これからも大切にしていきたい。

勿論、宮本さんも。

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