第85話

卒業が近付くにつれて、みんなと遊ぶ時間はどんどん減っていった。

就職も受験も関係ないあたしは、1人だけ相変わらずな日々を過ごしていた。

少しだけ取り残されてるような気持ちにもなったりしたが、すぐにそれを振り払う。


学校ではみんなに逢える。

それこそが楽しみであり、救いだった。

胸に刺さる僅かな不安も、すぐに打ち消す事が出来た。


冬休みは、自宅で過ごす日々だった。

皆勉強で忙しい。

あたしは与えられた課題をやるだけだったが、彼女達は違う。


かと言って、あたしも何もしなかった訳でもない。

今まで以上に、読書をするようになった。

手を出した事がなかったジャンルも、読むようにしてみた。

少しでも自分のカテゴリーや、視野、キャパシティを広げる為に。


彼女とは毎日連絡を取り合った。

勉強等で疲れている筈なのに、それらを一切見せなかった。


電話をしている時、耳にダイレクトに届く彼女の声がくすぐったくて、慣れるまでに時間がかかった。

なんというか、こう、こそばゆいというか。

彼女が直に耳元で話してる気がして、恥ずかしくなるというか。

彼女に話したら笑われそうだから、絶対に言わなかったけど。


クリスマスは2人で軽く出掛けた。

何処に行っても人だらけだし、イルミネーションもゆっくり見れなかったけど、2人で過ごせた事が幸せだった。

クリスマスに家族以外の誰かと出掛けたのは初めて。

彼女と関わるようになってから、何かと『初めての○○」が多い。


彼女には、手袋をあげた。

残念ながら手編みではないけれど、彼女はとても嬉しそうに受け取ってくれた。


彼女からは、小さな花がついたネックレストップを貰った。

花の真ん中に、色のついたジルコンがはめ込まれていて、光が当たるとキラキラと輝いて綺麗だった。

すぐにあたしの大切な宝物になったのは、言うまでもない。


学生故金銭面に余裕がない為、ファストフードで2人でハンバーガーを食べた。

なんて事のないハンバーガーが、いつも以上に美味しく思えるのは、きっと彼女と一緒に食べたからだろう。


あたしを家まで送ってくれて、別れ際にお別れのキス。

寒さのせいで冷たくなっていた口唇が一瞬で温まり、同時に顔も熱くなり、慌てふためくあたしを見て彼女は笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る