その伍

第84話

卒業までは、いろんな事があった。

悲しい事は殆ど無く、毎日笑いながら過ごせたと思う。

それもこれも、彼女や高橋さんや宮本さんがいたからこそ。


初めてまともに参加した文化祭では、うちのクラスは喫茶店をやる事に。

メイド喫茶は他のクラスがやるからと、うちは「ハイカラ喫茶」なるものをやる事になった。

和風テイストという事で、みんなで浴衣を着る事に。


あたしも浴衣を着る予定だったのだが、見事に持ってくるのを忘れるという失態。

取りに戻るにも時間がかかるから、仕方なく諦めて制服で参加しようとした。


が、担任が演劇部の顧問という事もあり、なんとハイカラさんのお約束の袴を借りてきてくれた。

あたしだけ本物のハイカラさん。

1人だけ袴姿になってしまい、申し訳ない気持ちになったのだが、クラスのみんなの反応は優しく、口々に「似合ってて可愛い」等のお褒めのお言葉をいただいてしまい、嬉しくもあり照れくさかった。


うちのクラスに遊びに来た彼女と高橋さんは、あたしを見つけるやいなや、すぐに携帯を取り出して写真を撮る。

彼女はと言えば、目をいつも以上に輝かせながらあたしを見て、満面の笑みを浮かべる。

恥ずかしいから写真は撮らないでと言ったものの、聞き入れてくれる事はなかった。


あたし、彼女、高橋さん、宮本さんの4人で、校内や外の出店も回った。

食べ歩きをしたり、体育館で行われていた軽音部のライブを観たり。

どれもこれも新鮮で、泣きたくなるくらい楽しかった。


体育祭も楽しかった。

こうしてイベント事に参加をし、心から楽しいと思ったのはいつぶりだろう。

小さな切っ掛けでクラスの人達とも、少しずつ話せるようにもなった。


「話し掛けてみたかったんだけど、いつも読書してたから、邪魔しちゃ悪いかなって思ってた」と言われた事もあった。

あたしはみんなに、自分の存在を気に掛けてもらえていただけで嬉しかったのに。

きっと彼女と出逢わなければ、こんな風にクラスの人達とも話す事はなかっただろう。

自然にクラスの人達と話せる事が嬉しくて、こんな日が来るなんて思ってもいなかった。


つくづく彼女の存在の大きさに、ありがたさに感謝しかなかった。

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