第83話

「ひ~ちゃん、大丈夫?」


「てか、舞あいつら脅し過ぎ」


「私の大事な舞を、こんなにけちょんけちょんにされたんだよ!?

 簡単に許せる筈ないから!」


穏やかではない彼女に、戸惑いを感じる。

が、自分の為に気持ちを露わにしてくれている事が嬉しくもあり…。


「瞳さん、あたしは大丈夫だから」


あたしの声が、言葉が、今の彼女にどれくらい届くかなんて解らない。

しかし、彼女に何か言葉を伝えたくて。


「…ありがとう。

 助けに来てくれてありがとう」


彼女の体を抱き締める。

今になって、体が震える。

怖かったし、逃げ出したかった。

けれど、逃げなかった。


褒めてほしい訳じゃない。

あたし自身が、ちゃんと戦い向き合わなくちゃいけないと強く思ったから。


逃げるのは至極簡単だ。

しかし、それでは何も解決しないのは解ってるから。


「舞、もっと私を、私達を頼っていいんだよ。

 全てを1人で抱え込まないで」


表情は見えないが、怒っている訳ではない彼女の声が聞こえた。


「今はもう、独りじゃないでしょ?

 私も、萌も、真美もいるから。

 何でも1人で抱え込まないで」


最後の方の言葉は、少し寂しげで。

彼女を傷付けてしまったのではないかと、慌ててしまう。


「ごめんなさい…」


僅かな間の後。



「舞は私の大切な人なんだから、私に守らせて」



小説に出てきそうな、あたしには勿体ないくらいの言葉を彼女はさらりと言った。

瞬間、あたしの胸は、心は熱くなる。


「ま~ちゃん、アタシも真美っちも頼っていいんだからね~」


「てか、かなり水臭いよ。

 一言相談してくれりゃあ良かったのに」


高橋さん、宮本さんの声。

あたしは、既に泣いていて。



人の優しさが、こんなにも温かくて。



泣いているあたしに気付いた宮本さんが、あたしの頭を撫でる。

そして、ふっと微笑む。


「舞、頑張ったね」


その言葉を聞き、更に涙が溢れた。

優しい人達。

あたしには勿体ないくらい。


ずっと欲しかった。

ずっと探してた。


求める事が怖くて、手を伸ばす事も出来なかった。

独りでも大丈夫と、強がるばかりだった。


「どうして、こんなにあたしに優しくしてくれて、寄り添ってくれるの?」


知りたくもあり、知っていいのかという戸惑い。

期待と不安が入り混じる。


彼女達は笑いながら答える。



「舞(ま~ちゃんが)が好きだからだよ」

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