第80話

残りの高校生生活は、とても楽しく有意義なものだった。


それまでよりも、もっと近付いた彼女との距離。

夏休みが終わり、学校が始まってからは、彼女と接する機会も格段に増えた。


休み時間になると、高橋さんと共にあたしの元に来てくれた。

宮本さんも会話に交じり、他愛ない会話で沢山笑った。


放課後は彼女と予定が合えば、寄り道をしたりして。

一緒にいれる事が、同じ時間を共に過ごせる事が、とにかく嬉しかった。


ある時、あたしと彼女がいつものように手を繋いで帰っていると、同学年の人に見られた事があった。

あたしは知らない人だったが、彼女は知っているとの事。

以前、彼女に告白をしてきた事があったらしい。


次の日。

その人から呼び出された。

放課後、指定されたお約束の体育館裏に行ってみると、その人の他に2人いた。

あたしが現れるなり、いきなりその人に突き飛ばされた。

あたしは見事に派手に尻もちをつく。


「何であんたみたいな、地味な奴が橋本さんと付き合ってる訳!?」


怒りだけが含まれた声。


「あんたと橋本さんが釣り合う訳ないじゃん!

 調子に乗るのもいい加減にしなよ!」


調子には乗っていない。

浮かれていない…と言ったら嘘にはなるが。

しかし、浮足立っていたのは事実だが、それはこの人には関係ない。


「橋本さんと別れてよ!

 彼女だって迷惑してる!」


一方的な話だ。

あたしと彼女の事をろくに知りもしないで、自分の感情を思いのままにぶつけてくるなんて。


「…そんなに瞳さんの事が好きなら、直接彼女に言ったらいいじゃないですか。

 貴女の一方的な感情を、あたしにぶつけられても困ります。

 あたしは瞳さんの事が好きですし、彼女もあたしに好きと言ってくれます。

 あたしは彼女の事を信じてるし、あたし達の関係に文句を言わないで下さい」


あたしが言い終えると、その人の右手が綺麗に宙に舞う。

目で追うが追いつかず、あっという間にあたしの左頬から乾いた音が聞こえた。

遅れて痛みが走る。

その人に叩かれたと理解するまでに、時間はかからなかった。


痛む頬を左手で押さえるも、叩かれた頬はジンジンしている。

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