第79話

「どんなに小さな事でもいい。

 いろんな舞を知りたいな」


あたしもいろんな彼女を知りたい。


「知り合ったばかりの頃より、沢山話してくれるようになったのが凄く嬉しくて。

 今はこんなに近くにいれるのが嬉しくて」


天井を見上げたまま、彼女は言葉を続けていく。


「舞の事、諦めようと思った時もあった。

 けど、この気持ちだけは消す事が出来なくて…。

 ううん、消す事が出来ないで良かった。

 今こうして舞と気持ちが繋がったから。

 …私、話し過ぎだね、ごめん」


苦笑いを浮かべながら、彼女は謝る。

些細な事でも謝るのは、彼女の癖なのかもしれない。


「誰かに想われる事が嬉しくて、幸せな事なんだって教えてくれたのは瞳さん」


あたしが話すと、顔をこちらに向けた。


「瞳さんは、あたしが知らない事を教えてくれる。

 初めての事ばかりで、戸惑う事もあるけど。

 

 瞳さんの優しいところ、凄く好き。

 あたしをいつも気に掛けてくれるところも。

 あたしも瞳さんのような、優しい人になりたい」


「私はそんな大層な人間じゃないよ」


照れながら彼女は笑う。


「そろそろ寝ようか」


電気を消すと、風で揺れるカーテンの隙間から、外の街灯の灯りが部屋に入り込んでくる。

今夜は昼間の暑さが嘘のように、涼しい夜だ。

夏の夜の風は、やんわりと部屋の中を漂う。


おやすみを言う前に、彼女から寝息が聞こえてきた。

緊張とかも手伝って、疲れていたのだろう。

体を少し動かし、彼女の顔を覗いてみれば、幼さ残る寝顔。


体を戻し、あたしも目蓋を閉じる。

まだ暫くは眠れそうになさそうだ。


それまでの自分とは、かけ離れた生活。

彼女のお陰で彩られていく日々が眩しい。

きっとこれは、今まで経験した事のない『贅沢』


幸せという言葉だけでは表しきれない。

どんな言葉で表せばこと足りるだろうか。


これからの人生、彼女と一緒に歩いていきたい。

その手を繋ぎ、未来へと共に進んでいきたい。

湧き上がる気持ちは、泡のように次から次へと浮かんでくる。


5年、10年とどんなに時が流れても、変わらず彼女と一緒にいたい。

貴女の隣で笑う、あたしでいたい。

この想いを、貴女だけに注いでいきたい。


貴女に出逢えて良かった。

この先何度もそう思うだろう。

そして、何度だって貴女への愛しさを綴るんだ。

それは甘い恋愛小説の如く。


遠くの方から眠気がやってくる。

あたしは身を任せ、眠りの世界への扉を開く。


貴女はどんな夢を見ているのだろう。

夢でも逢えたら素敵なのに。


そんな事を思いながら、眠りについたのだった。

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