第78話

彼女の温もりがあたしを包み込む。

あたしはそっと目を閉じる。

好きな人に触れるだけで、こんなにも心が、気持ちが落ち着くなんて知らなかった。


彼女の片方の腕があたしの体から離れると、その手はあたしの頭に向かい、優しく撫でられる。

彼女を全身で感じながら、いっそこのまま眠りについてしまいたいくらいだ。

幸せな夢を見れると、断言出来る。


「舞」


名前を呼ばれる。


「好きだよ。

 誰よりも大好き」


彼女の声がくすぐったい。

あたしは小さく首を縦に振る。


彼女の真っ直ぐな想いが伝わってくる。

嬉しくて泣きたくなるくらいに。


「あたしも…」


「ん?」


「あたしも瞳さんの事…大好きです」


愛しい。

誰よりも何よりも愛しくて、貴女しか見えないくらい。


あたしを抱き締める腕に力が入る。


「私を受け入れてくれて、気持ちを受け止めてくれてありがとう」


少しだけ、声が震えているような気がしたが触れなかった。


「こちらこそ。

 あたしを見つけてくれてありがとう」


貴女があたしを見つけてくれて、好きになってくれて、あたしの傍にいてくれて。

あたし、貴女のお陰で変わり始めてる。

貴女に出逢わなければ、変わる事もなく、ひっそりと生きていくだけだったかもしれない。


友達が恋人になり、大切な存在になった。

こんな幸せな事が起こるだなんて、夢にも思っていなかった。


あたしはもう独りじゃない。

孤独に、寂しさに涙を流していた自分に別れを告げる時がきた。


あの頃のあたしを優しく抱き締めて、『大丈夫だよ』と言ってあげたい。

過去の傷は、ふとした時に疼くかもしれない。

それでも痛みを和らげ、撫でてくれる人がいる。

傷付くばかりの人生じゃない事を知った。


彼女に対する愛しさが止まらない。

気持ちが、想いが止めどなく溢れてくる。

誰かを好きになるという事が、こんなにも素敵な事だったんだ。


2人であたしのベッドで横になる。

2人寝転がると少しばかり狭いが、体を寄せ合えるのが嬉しい。


「舞はベッドでいいなあ。

 私は布団だから、朝起きるとちょっと体が痛くなるんだ」


「あたしもずっと布団だったんだけど、高校生になってからベッドに変えたんだ。

 最初は慣れなくて、たまにベッドから落ちたりもしてたから、落ちても大丈夫なように、足元にクッションを置いておいたりしたんだ」


あたしの話を聞きながら、彼女はけらけらと笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る