第73話

リビングからあたしの部屋へと移動した。


「舞の部屋に初侵入~」


楽しそうに、彼女はあたしの部屋を見渡す。


「すっげ~、沢山本があるね。

 本屋さんみたいだ」


本棚を見ながら、瞳を輝かせる。


「読みたい本があったら、貸すから言ってね」


「まじで!?

 ありがとう、凄く嬉しい!」


彼女の顔が更に輝く。

端から端まで背表紙を見ていき、数冊の本をピックアップする。

あたしはその本を受け取ると、袋を取り出し彼女に手渡した。


「ありがとう!

 ずっと気になって本、やっと読める~」


「返すのはいつでも大丈夫だからね」


「ん、ありがとう!」


本当に嬉しそうだ。

喜んでもらえたなら、あたしも嬉しい。


そうだ、彼女の布団を用意しなくては。

母親&父親の部屋の押し入れに、来客用の布団があった筈だ。


「ちょっと待っててね」


「何処行くの?」


「瞳さんの布団を取りに行ってくる」


すると、彼女は何かを閃いた顔をする。


「折角だから、一緒のベッドで寝たいな」


彼女の言葉を聞き、理解するまで30秒くらいかかった気がする。


「い、一緒のベッド!?」


またしても、あたしの頭の中がドカンとなった。


「あ、いや、舞が嫌なら無理にとは言わないから気にしないで」


「い、一緒に寝るのは構わないけど…。

 その、心の準備が…!」


家族以外の誰かと一緒に寝るなんて、初めての経験だ。

まして、初めてが好きな人と一緒に寝るなんて。


顔が熱い。

きっと真っ赤になっている筈だ。

どぎまぎしているあたしを見た彼女は、何かを察したのか。


「襲わないから安心して」


にっこりと微笑む彼女。

あらぬ事を考えていたのを、見透かされたのだろうか。

恥ずかしさのスピードが増し、心臓がドカドカと五月蝿い。


「いつも1人で寝てるから、たまには誰かと一緒に寝てみたくてさ」


刹那、心はすぐに平常心を取り戻す。


「母さんは夜も運転してるから、一緒に布団を並べて寝るって事が殆どなくて。

 私が学校に行く時に帰ってくるから、ほぼほぼすれ違いなんだ。

 あ、でも、親子関係は良好だから大丈夫だよ」


彼女の顔が、少しだけ寂しげに見えた。

心がチクリと痛む。


「…ベッド、狭いけど大丈夫?」


あたしの言葉を聞いた彼女は、優しく微笑む。


「舞と一緒に寝れるなら、狭かろうが何だろうが問題ないよ」

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