第72話

「お風呂いただいたよ~。

 ふわ~、さっぱりさっぱり」


タオルで髪を拭きながら、(勝手に拝借した)姉のTシャツと短パンに着替えた彼女がリビングに戻ってきた。


「先にお風呂いただいちゃってごめんね」


「瞳さんはお客さんだからいいんだよ。

 あたしも入ってきちゃうね」


入れ替わりで、あたしもお風呂に入る。

ぬるめの湯船に浸かりながら、これからの時間の事を考える。


どんな事をして過ごそうか。

ゲーム…はあたしはしないし、持っていない。

読書…だと、会話もなくなるしつまらない。

枕投げ…は、危なそうだからやめておこう。

…トランプとか?

お風呂から出たら、彼女に聞いてみよう。


何だか不思議な感じだ。

彼女があたしの家にいて、2人だけの空間になって。

こんなに濃い時間を過ごすとは、思ってもいなかった。


『2人きり』というワードが、あたしの心に引っ掛かっていて。

2人きりだから、ドキドキしている事もある。

漫画や小説なら、ドキドキな展開が待っているのがお約束ではないか。


…キスとかするのだろうか。

いやいやいや、それはきっとまだ早いような気がする。

もしキスをしたら…あたしはきっと、眠る事が出来なくなるくらい、頭の中がど偉い事になりそうだ。


何もかもが初めて尽くし。

初めての事は刺激的だ。

淡い期待が、心の中を右往左往している。


お風呂から上がり、着替えてから、髪の毛を乾かし、彼女がいるリビングへ。

彼女はテレビを観つつ、携帯を弄っていた。


「あ、おかえり~」


あたしに気付くと、にっこり微笑みながら迎えてくれた。


「うん、ただいま」


照れくささを引き摺りながらも、あたしも微笑み返す。


「舞はいつも何時くらいに寝てる?」


「あたしはその日によってかなあ。

 でも、遅くても1時には寝るようにしてる」


「遅くまで起きていられていいなあ。

 私は部活がある時は6時に起きなきゃだから、23時くらいには寝ちゃうんだ。

 あ、でも部活がない時は、舞と同じくらいの時間に寝てるよ。

 明日は部活はないから、夜更かしし放題だ」


悪戯な笑みを浮かべながら、彼女は言った。

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