第71話

「じゃあ、あたしは行ってくるね。

 火の取り扱いには気を付けて。

 戸締まりはしっかりするのよ。

 夕飯代は渡したわよね。


 それじゃあ瞳ちゃん、舞をよろしくね。

 行ってきます」


母親を見送る。

いよいよ彼女と2人きりだ。

変に意識してしまい、未だに心はドキドキが収まらない。


「改めて、夕飯はどうしよう。

 舞が作るの大変だったら、スーパーかコンビニで弁当でも買う?」


折角なら、手料理を食べさせてあげたい。


「瞳さん、唐揚げ食べたいって言ってたよね。

 唐揚げなら簡単だから、すぐに作れるよ。

 ご飯は炊いて、味噌汁は…豆腐があったから、豆腐の味噌汁にして、サラダと漬物でどう?」


「舞、作ってくれるの?

 やった!!!」


無邪気に喜ぶ彼女が可愛くて、トキメキを隠せない胸。


「じゃ、じゃあ、買い物に行かなきゃ」


「私も一緒に行く!」


かくして、2人で買い物に行く事に。

暑さは相変わらずだったが、然程気にならなかったのは、やはり2人きりで過ごすという事で、頭がいっぱいだったからだろう。


材料を買い、帰宅すると、早速あたしは準備に取り掛かる。

キッチンであれこれやっていると、テレビを観ていた筈の彼女がやってきた。


「どうしたの?」


「いや、舞が一生懸命料理を作ってるところを見ていたくて」


危うく包丁を落としそうになるも、何とか踏みとどまる。

不意打ちは狡い。


ご飯も炊き上がったし、味噌汁とサラダの準備も出来ている。

漬物は簡単に漬けたけど、ちゃんと味が入っていた。


唐揚げを揚げ終わり、テーブルに運ぶ。

彼女はご飯や味噌汁をよそってくれたり、お箸や取り皿を並べてくれたり。

彼女はずっとご機嫌で、鼻唄まで歌っていた。


2人でテーブルを囲み、やっと夕飯にありついた。

いただきますをし、彼女は味噌汁に手を伸ばし、汁を啜る。


「すっげ~美味い!

 味付けも丁度いいよ!」


唐揚げを取り、大きな口を開けてかぶりつく。

と、満面の笑みを浮かべる。

そして、ご飯を口の中へかきこむ。


もりもりと食べる彼女が子供のようで、あたしはクスリと笑ってしまった。

美味いを連発しながら、沢山食べる彼女を見ているのが好きだと気付く。


「なんか、新婚みたい」


そんな不意打ちに、あたしは飲んでいた味噌汁を豪快に吹き出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る