第70話

彼女も驚きを隠せないようで、母親の言葉に口をあんぐりと開けている。


「ちょ、お母さん!

 いくら何でもいきなりすぎるでしょ!

 瞳さんにだって予定とか、家の都合とかがあるだろうし…」


お泊まりだなんて。

彼女と2人きりでお泊まりだなんて、あたしにはなかなかハードルが高い。


一緒のベッドで眠るだろうか。

いや、きっと母親は彼女の布団を用意するだろうから、一緒に眠る事はないだろう。


「お泊まりしていいんですか?」


予想していなかった彼女の返答に、慌てて彼女の顔を見れば、それはもう素敵すぎるくらいニコニコした表情を浮かべておられてました。


「き、着替えないよ!?」


「着替えなら、近所のしまむ◯で買えばいいじゃない」


ぐうの音も出ない。

お手頃価格ながら、品物は選り取り見取りだし、学生の味方である。

無論、あたしもお世話になっている。


「母親には連絡入れておけば大丈夫です。

 誰かの家に泊まるの、凄く久し振りだなあ」


あたしは誰かを家に泊めるのは初めてだし、付き合ってる人とお泊まりするのも初めてである。


「夕飯は好きなもの食べなさい。

 家にあるものを食べてもいいし、どっかで買ってきたり、食べてきたりしていいから。

 くれぐれもお酒だけは飲んじゃ駄目よ。

 よし、あたしは仕度しなきゃ」


そう言って、母親はその場を後にした。


「お母さん、何の仕事をしてるの?」


「知り合いの居酒屋の手伝い。

 夜勤は夜中までなんだけど、その後店の人達と飲みに行っちゃうから朝帰りなの」


「うちは長距離のトラックの運転手だから、ずっと運転しっぱなしなんだ。

 人手が足らないから、その分負担が大きいみたいで。

 まあでも、車の運転が好きだから、あんまり苦ではないみたいだけど。

 それより、本当にお泊まりしちゃっていいのかな。

 私は舞と長い時間一緒にいれるから、凄く嬉しいけど」


一緒にいれるのは、あたしも嬉しい。

ただ、何というか、嬉しくもあり恥ずかしく、照れくさいというか。


「夕飯はどうしようか?」


「瞳さんは何か食べたいのある?」


「舞が作ってくれるなら何でも」


にっこりと笑いながら言うもんだから、あたしの心はドキドキしっぱなし。

こういうところは、ちょっと狡いなと思う(そこがまたいいのだけど)

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