第69話

「瞳さん、お昼は食べちゃった?」


「それがさ、寝坊したから朝御飯も昼飯も食べ損ねちゃったんだ」


「それなら良かった!

 一緒にお昼食べましょ!」


「えっ、いや、でも申し訳ないですよ」


両手を左右に大きく振る彼女をよそに、母親は椅子から立ち上がる。


「気にしないでい~の。

 暑いから冷やし中華にでもしましょうか」


母親がキッチンへ行くのを見た彼女は。


「い、いいのかな」


不安そうに、小声であたしに尋ねる。

当のあたしは、いきなり彼女の口が耳元に来た為、そちらに反応してしまったものの、咳払いをしてから、『大丈夫だよ』と告げた。


「お菓子までいただいちゃったのに」


「お母さん、瞳さんに逢いたがってたし、料理をするのも好きだから、そんなに気にしないで。

 あたし、お母さんの手伝いしてくるから、瞳さんはゆっくりしてて」


あたしもキッチンへ向かい、母親のアシスト。


「あの、私も手伝います」


暫くすると、彼女がキッチンへやって来た。


「何もしないのも、申し訳ないですし」


右手の人差し指で頬を掻きながら。


「と言っても、自分は料理は殆どしないから、手伝える事があるかどうか」


「瞳ちゃんはお客さんなんだから、ゆっくりしててくれていいのに。

 じゃあ、今鍋で麺を茹でてるから、麺がくっつかないように混ぜてくれる?」


「はい!」


3人でキッチンに並び、賑やかに昼食作り。

あたしも楽しくて、ずっとニコニコしていた。


昼食を済ませると、お茶を飲みながらお喋り。

母親が学校でのあたしの事を彼女に聞き、ご丁寧にあれこれ話してくれるもんだから、あたしは必死に抵抗するも、彼女は話を止めてくれなかった。


チラリと母親を見ると、とても嬉しそうに話を聞いていた。

あたしがちゃんと学校で楽しくやっている事、友達が増えた事を知り、安心したのかもしれない。

うっすらと瞳が潤んでいたのは、見なかった事にした。


楽しい時間が過ぎるのはあっという間。

時計を見ると、18時を過ぎた頃だった。


「もうこんな時間かあ。

 あたし、そろそろ仕事に行かなきゃ」


「あれ?今日仕事だったっけ?」


「この前夜勤だよって言ったでしょ?」


しまった、忘れていた。


「お父さんは友達とゴルフがてら旅行、唯は彼氏の家にお泊まり。

 舞、1人になっちゃうわね」


1人になるのはたまにあったし、あたしとしては何の問題もない。


「そうだ、瞳ちゃん、うちに泊まっていかない?」


いきなりブッ飛んだ話を切り出され、あたしは飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。

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