第66話

「知らず知らずの内に、舞を独り占めしたいって思うようになってた。

 独占欲…う~ん、またちょっと違うか。

 一緒にいれる時間を増やしたいというか。

 秋には部活も引退だから、少しは時間を増やせると思う。

 推薦貰ってた大学辞めて、別の大学に行くって先生に行ったら、推薦枠あるよって言われてさ。

 受験生みたいに勉強しないでいいのは救い」


彼女は立ち上がると、あたしの前で跪く。

あたしの右手を取り、両手で包み込む。

そして、自身の顔に近付ける。


「色々ごちゃごちゃ話したけど…。

 何が言いたいかって言うと…。

 その、先に言われちゃったけど…」


顔を赤く染める彼女は、アネモネのようだ。


「私は舞が好きです。

 いつも舞の事ばかり考えてる。

 こんなに誰かを好きになったのは、舞が初めて。

 何も取り柄がない私だけど、もし良ければ、私と付き合ってくれませんか?」


その姿は、まるで物語に出てくる王子様の如し。

目蓋を閉じたまま、そんな言葉を言われたあたしは、頭の中で何かが弾けた。


心拍数はとんでもない事になっているし、恥ずかしさと照れくささが交わって、何とも言えない気持ちになってるし、緊張からなのか解らないけど、汗が滝のように流れている。


今まで見てきたどんな世界よりも甘い。

目眩さえ起きそうなくらい。

あたしはこんな素敵な人に、蜜よりも甘い告白をされた。


左手で口元を覆いながら、遠くにいってしまいそうな意識を何とか繋ぎ止める。

ちょっとでも気を抜いたら、そのまま倒れてしまいそうなくらいだ。


あたしの『好き』と彼女の『好き』が同じで。

気持ちと気持ちが繋がって。




恋が愛になろうとしていて




少しずつ落ち着かせる。

状況を反芻し理解する。


彼女があたしを好きだと言った。

嘘でも夢でもない。


「ちょ、どした!?」


言葉も出ないまま、あたしの瞳から涙が溢れた。


こんなに素敵な人を好きになれた。

好きと言われた。

嬉しすぎて涙が止まらない。


好き。

誰よりも貴女が好き。

声が枯れ果てても、貴女に想いを伝えたい。


立ち上がった彼女は、一瞬躊躇うも、静かにあたしを抱き締めた。

細くて華奢な腕に包まれ、あたしは泣きながら微笑む。

幸せ過ぎて、言葉に出来ない。


1歩踏み出す勇気を持てて良かった。

また1つ、新しい自分を知れた。

紛れもなく、彼女のお陰だ。


「瞳さん…」


泣きすぎて声が少し掠れてる。


「ん?」


相変わらず優しい声。


「何の取り柄もないあたしですが…」


貰ってばっかりで、何も返せてないあたしですが。




「よろしくお願いします」

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