第63話

「瞳さんと一緒にいれる事が、嬉しくて。

 自分の隣に、瞳さんがいてくれるのが、嬉しくて」


さっきから嬉しいとしか言えてない。

けれど、嘘は何一つ言っていない。


「逢えない間、ずっと寂しくて。

 いつも瞳さんの事を、考えてて。

 逢いたいけど逢えなくて。

 心がずっと、雲がかかったようで」


彼女は何も言わずに、あたしの言葉に耳を傾けている。


「この前、久々に逢えた時は、とにかく嬉しくて。

 1人で舞い上がってしまったというか。

 強引に約束をこぎつけてしまってごめんなさい」


彼女は頭を左右に振った。


「瞳さんと逢えない間、どうしてこんなに寂しいんだろうって考えてみた。

 自分の隣に、瞳さんがいないからだって気付いて。

 傍にいてほしいって、思う自分がいて」


開いていた手で拳を作り、力を込めた。

緊張のせいで胸が張り裂けそうだけど、後戻りは出来ない。


「考えて…色々考えて、辿り着いた。

 あたしは瞳さんが…好き、なんだって。

 友達としての、好きではなくて…」


彼女の目が、大きく開く。


「瞳さんは格好良くて、優しくて。

 どうしてあたしを気に掛けてくれたのかは解らないけど、瞳さんの優しさはいつも温かくて。

 あたしの冷えた心を、温めてくれて」


いつだって貴女に救われていた。

貴女がくれる温もりに、どれ程癒されたか解らないくらい。


「…女の子を好きだなんて、周りからしたらおかしい事かもしれない。

 今まで誰かを好きになった事はないし、恋愛も片想いもした事がないから、解らない事ばかりで。

 けど、あたしは自分の気持ちに気付いて、自分の気持ちを知った…」


彼女の瞳が揺れてる。



「あたしは、瞳さんが、好き…です…」



暑さと緊張のせいで、喉がからからだ。

首筋の汗が流れたのが解った。


沈黙が漂う。

彼女は驚いたままの表情で固まっている。

口をパクパクさせていて、まるで金魚のようだ。


言ってしまった。

彼女が好きだと。

言って良かったのかは解らないけど…。


でも…言わずに後悔するよりは、言って後悔した方がいいと思った。

何もしないまま、時間だけが虚しく流れていくのは嫌だと思ったから。



貴女に気持ちを、ちゃんと伝えたいと思ったから。

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