第60話

花火は止めどなく打ち上がる。

大きな花火も、小さな花火も綺麗で。

そして、花火を見つめる彼女の横顔が綺麗だった。


大袈裟と言われるかもしれないが、今まで見てきた花火より、今日見た花火が1番綺麗だなと思った。

あたしはこの先、何度も今日の花火を何度も思い出すだろう。


あたしの右手に、何かが触れた。

ちらりとそちらを見ると、彼女の左手があたしの手に重ねられていた。


彼女はこちらを見る事はなく、空を見つめている。

あたしは声を掛ける事はせず、視線を空へと戻した。


自分の指を、そっと彼女の指に絡めてみる。

気付いた彼女はあたしを見る。

あたしは少し照れくさくなり、やや俯いてしまった。


彼女は何も言わず、あたしの指に自身の指を絡めてきた。

絡まり合う指と指。

それだけで、あたしは全身が熱くなる。


息が苦しくなるくらい、彼女への想いが強くなる。

きっとこれが『恋』

あたしは彼女に恋をしている。

彼女から目を離せない。


寝ても覚めても、彼女の事ばかり。

今だってそう、花火の事よりも彼女の事で頭がいっぱいだ。




好き




たった一言を言えたなら。

たった一言を言ったら、2人はどうなってしまうのだろう。

貴女はあたしをどう思うだろう。


期待と不安が押し問答。

答えが何処かにあるなら、すぐにでも探しに行くのに。


貴女はあたしの事を、どう想っているのだろう。

どうしてこんなに、彼女の考えている事や想っている事が気になるのだろう。

今までは、こんな事はなかったのに。


恋愛ものの小説は何度も読んだ。

ハッピーエンドのものも、ほろ苦いバッドエンドのものも。


誰かを好きになったり、愛したり。

誰かに運命を感じたり。


好きになった人の言葉や行動に、時に喜び、時に傷付き、時に涙して。

何処か他人事のように思っていた『恋愛』というものを、自分がするなんて。



ー片想いー



それがこんなにも切ないものだと知った。

近くて遠い距離がもどかしく、自分はどうすればいいのか解らなくて。


もっと傍にいたい。

もっと彼女を知りたい。

もっと彼女を見ていたい。


自分はこんなにも、欲張りだったなんて。

何が切っ掛けで、自分を知るか解らないものだと思った。

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