第58話

高橋さんに気を遣わせてしまった。

後で謝りのメッセージを送らなくては。


「もしかしたら、萌達と遭遇するかもね。

 まあでも、これだけ人がいるから無理かな」


学校の人に遭遇する、リスクを考えてなかった。

これだけの人がいるのだから、学校の人がいてもおかしくない。


「学校の人に見られちゃったら大変…」


「何で?」


「その、変な噂とか立っちゃうかもだし…」


彼女はきょとんとしたものの、すぐに笑う。


「言いたい奴には言わせておけばいいんだよ」


あっけらかんとしている彼女を見たら、確かにそうかもと思った。

あたしも大概気にしすぎかもしれない。


お祭りの会場に着くと、彼女は早速たこ焼きを売っている屋台を探す。

特に人が並んでいる屋台があり、覗いてみると、大きなタコが入っている事を売りにしているようだった。

一緒に並び、待つ事10分少々。


「お姉さん、めっちゃ綺麗だね!

 よっしゃ、めっちゃ大きいタコ入れて焼くからね!」


お店の人に言われ、恥ずかしくなり俯くと。


「でしょ~?綺麗でしょ~?」


彼女はニコニコしながら、お店の人に言葉を返す。

あたしは更に恥ずかしくなり、顔を赤くしてしまった。


買い終わって、ベンチを見つけてそこに腰掛けた。


焼きたてのたこ焼きは、言葉通り熱々だ。

爪楊枝と割り箸が入っていたから、迷わず割り箸を使う事にする。


「あっち!

 うっま!

 タコ、本当にデカいなあ」


「たこ焼き食べたの、凄く久し振り。

 暑いのに熱いの食べたら、もっと暑くなるのに食べたくなるから不思議だよね」


こうやって屋台でたこ焼きを買い、食べたのは本当に久し振りだ。

外で食べるといつもより美味しく感じるが、今日はきっとそれだけが理由ではない筈。


彼女を見ると、口の端にソースが付いていた。

ハンカチを取り出そうと巾着を開けると、彼女に返すタオルが見えた。

それを取り出し、彼女に「これ…」と言って差し出す。


「この前、持って帰っちゃってごめんね。

 ちゃんと洗ったから大丈夫」


「洗わなくても大丈夫だったのに」


彼女は袋に入れたタオルを受け取り、袋から取り出すと、早速口元を拭こうと口に近付けると。


「舞の匂いがする」


そう言って、彼女は顔を綻ばせる。

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