第54話

お祭り当日。

あたしが指定した待ち合わせ場所ではなく、彼女が指定した待ち合わせ場所に向かった。


と言うのも、遡る事昨日の晩。

読み掛けの本を、きりのいいところまで読んだら寝ようかと思っていた時に、携帯が震動した。

画面を覗き込む。


『こんばんは。

 明日だけど、舞の待ち合わせ場所だと凄く混むだろうから、別の場所で待ち合わせない?』


彼女からのメッセージ。

そういえば、勢いで待ち合わせ場所を指定してしまったものの、よくよく考えてみたら、駅の近くだし人の往来は凄い事になる。


『うん、違う場所で大丈夫だよ。』


すぐに返信すると、既読が瞬時につく。


数回のやり取りをし、新たな待ち合わせ場所も決まり、そのままメッセージのやり取りは終わった。

そして、現在に至る。


夕方と言えども、気温は大して下がらない。

巾着からタオルを取り出し、額を濡らす汗を拭いた。


電車を使おうと思ったものの、歩いて隣の駅まで行く事に。

電車は恐ろしい程ぎゅうぎゅうだろうし、仮に乗れたとしても浴衣が着崩れてしまう。


父親がいたら車で近くまで送ってもらえたのだが、こんな時に限って出掛けしまって不在だった。

父親に車を使われてしまった為、母親に頼る事も出来ないから諦めた。


歩きながら、浴衣を見てみる。

普段洋服しか着ないせいか、和服を着ている自分に少々の違和感を感じるから不思議だ。


母親はあたしの髪もやりたいと言い出し、姉のコテやら何やらを持ってくると、毛先を器用に緩くくるんとさせた。

手先が器用な事もあり、手芸や料理もお手のものなのだ。


束ねた髪は緩いパーマがかかったようになっていて、歩く度にふわふわと揺れる。


化粧も施され、仕上がったあたしを見た母親は、満面の笑みを浮かべながら親指を元気よく立てた。


「あんたも自分で化粧とかすればいいのに~」


正直なところ、お化粧をしたい気持ちはあるのだが、化粧品にお金を費やすと、買える本が限られてしまう。

バイトをしようとも思うものの、接客は出来ないし、工場系や力仕事は向いてない。

自分に合いそうなバイトを見つける事が出来ず、結局諦めたのは言うまでもない。


話を現在に戻す。

携帯を取り出し、時間を確認する。

この分だと、少し早めに着きそうだ。

心を落ち着かせる時間になるだろう。

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