第52話

彼女に(無理矢理)約束をつけてしまった。

自分でも、どうしてこんな行動をしたのかは解らない。

衝動…その言葉だけで片付けるには、少ない気もする。




土曜日、必ず行く




そのメッセージ以降、連絡はない。

あたしも連絡はしていない。

彼女の事は気になるが、また自分が暴走しないか心配なのもある。


約束の日まであと3日。

1日が終わる度に、胸の奥が苦しくなる。


課題をやってはいるが、少しやって手が止まっての繰り返し。

結局のところ、頭の中も心の中も、彼女の事を考えるので忙しい。



コンコンコン



振り返ると同時に、部屋のドアが開き、母親が顔を覗かせた。


「毎日真面目に勉強してて偉いなあ」


部屋に入ってきて、あたしの課題の冊子を覗き込むなりそう漏らす。


「瞳ちゃんと遊びに行ったりしないの?」


その言葉を聞くと、体が一瞬動いた。


「明後日お祭りあるし、一緒に行ってくればいいのに」


その言葉を聞くと、顔が一気に赤くなった。


「若者よ~、青き春を楽しまないと。

 あ、今は夏か~」


自分で言った事にけらけらと笑う母親と、どう反応したらいいのか解らずにいるあたしの、何とも不思議な空間。

あたしが黙っていると、母親が顔を覗き込んできた。


「顔、真っ赤だよ?」


「あわ、わ…」


「泡?」


キョトンした顔のまま、母親はあたしを見つめている。

どのみち土曜日は出掛けるから、その旨は伝えなくては。


「ど、土曜日出掛けるから」


絞り出した声は、蚊の鳴く声の如し。

が、それでも静寂の中だったお陰か、母親にはしっかりとあたしの声が届いたようで。


「瞳ちゃんとお祭りに行くのね!

 よしよし、行ってこぉい!」


「ちょ、何でお母さんのテンションが爆上がりなの!?」


「あんたがひっっっっっさびさに祭りに行くから!

 そして相手は噂の瞳ちゃん!

 うら若き高校生のデートかあ、いいなあ。

 あたしもあんたの制服着たら高校生になれるかしら?」


「さらっと流れる流水の如く、末恐ろしい発言しないでよ!?」


「ちょっとあんた、あたしがババアだって言いたいって事?

 今夜はあんたの大好きな豚肉のアスパラ巻きだけど、あんたの大嫌いなセロリしか出さないわよ?」


「む、娘を脅迫しちゃ駄目!

 謝る、謝るからセロリはやだ!」


子供の時から、セロリが苦手なのだ。

青臭いし、美味しくないし、鼻や舌に匂いや味が残るし…(全国のセロリ大好きの皆様、ごめんなさい)

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