第51話

ほんの少しの沈黙が、酷く長く感じて。

言いたい事は色々あった筈なのに、どれから言葉にしたらいいのか解らなくて。


ちらりと彼女を見ると、彼女もこの空気をどうするべきかと考えているのが解る。

何かを話さなきゃと思えば思う程、頭は真っ白になってしまうのは何故なんだろう。


気まずい沈黙が、肌をチリチリと刺しているようだ。

お互いにそろそろ限界が近い筈。


「あ、あのっ!」


少し大きな声。

少し上ずった声で。


「来週の土曜!

 逢いましょう!」


口が、声が、勝手に動く、出る。


「来週の土曜、一緒にお祭り、行きましょう!」


どうしてこんな事を行っているのか、自分でもさっぱり解らない。

顔が熱いな。

自分は今どれ程の熱が、体中を駆け巡っているのだろう。


「あたし、待ってますから!

 瞳さんが来なくても、待ってますから!」


これでは相手に『絶対来てね』と、強引に取り決めているようなものだ。

そうじゃなくて、もっとラフに誘いたいのに。

訂正したいのに、それすらも出来なくて。


「18時にここの駅の近くのコンビニで待ってます!

 あたし、待ってますから!

 じゃあ、また!」


言い終えると同時に、あたしは駅へ走り出していた。

彼女の返事も、何も聞かずに。

彼女に何も言わせる間も与えずに。


彼女から離れた所で、不意に足が止まる。

右手には彼女から受け取ったまま、握り締めていたタオルが。

返し損ねてしまった。

それどころではなかったけど。

洗って返さなくては。


いやいやいや、タオルの話ではなくて。

やってしまった、やっちまった。

あたしは一体、なんて事をやらかしてしまったのだろう。


一方的過ぎるし、勝手に約束を取り付けてしまった。

ポカンとしながら、あたしの話を聞いていた彼女の顔が浮かぶ。


久々に逢えた事が嬉しかったのは解る。

それにしても、いくらなんでも暴走しすぎた。



彼女に迷惑を掛けてしまった



泣きそうになる。

こんな筈ではなかったのに。

どうして空回りしてしまうのか。


もっと上手く、やり取りをしたいのに。

もどかしさに、息が詰まりそうだ。


謝ろう。

鞄にしまったままの携帯を取り出すと同時に、携帯が震えた。

ディスプレイには彼女からのメッセージ。



『土曜日、必ず行く』



僅かな文章を何度も繰り返し読み返し、あたしの瞳から涙が数滴零れて落ちたのだった。

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