第46話

「いらっしゃいませ、3名様ですね。

 あちらの奥のテーブルへどうぞ」


大学生くらいの男の店員さんが、にこやかに対応をしてくれた。

昼時という事もあってか、店内はお客さんが多くて賑やかだった。


「何食べるかな~。

 あ、冷やしラーメンもいいなあ」


「アタシは冷やし中華と餃子とライスのセットにする~」


「あたしは…冷やし中華の単品で」


店内はクーラーが効いていて涼しい。

先程の店員さんが持ってきてくれた氷水を飲むと、暑さが少しずつ和らいでいく。


店員さんに注文をすると、しばしの沈黙。

が、すぐに沈黙を破ったのは宮本さんだった。


「舞は瞳と喧嘩でもしたの?」


体がピクリと反応する。


「喧嘩…した訳じゃないんだけど…」


何と話せばいいのだろう。

場合によっては、彼女の立場を悪くしてしまう恐れがある。


「ひ~ちゃんもかなりしょんぼりしてた。

 どうしたのって尋ねても、濁されるし話してくれないんだよね~」


しょんぼりした彼女は、なかなかどうして想像出来ない。

いつも明るく元気な彼女が翳るなんて…。


「何かしら原因はあるんだろうけど、無理に話せとは言えないし…。

 何にせよ、舞が元気ないのは心配だよ」


然り気無くあたしの心配をしてくれる事が嬉しい。


「アタシもひ~ちゃんが心配。

 大好きでたまらないま~ちゃんと距離を取るのは、かなりしんどいだろうに」


飲んでいた氷水を吹き出す。


「だ、大好き!?」


口元はびしょ濡れなのも構わず、あたしは高橋さんの言葉を反芻する。


「ひ~ちゃんはま~ちゃんの事、大好きだよ。

 いっつもま~ちゃんの話ばっかだし」


あたしの知らないところで、あたしの話をする彼女。


「いつもにっこにこしながら、ま~ちゃんの話をしてる。

 早く告白しちゃいなよって言うんだけど、押し黙っちゃうんだよね~」


「あ、やっぱ瞳は舞の事が好きなんだ?」


そんな「昨日の夕飯何食べた?」みたいな、軽い感覚で話されても。

いや、ちょっと待って。

待って待って待って。




彼女の言う『好き』の意味とはー




あの日の事が頭に浮かぶ。

真剣で真っ直ぐな瞳が、表情を思い出す。




もしかして

もしかしなくても

彼女は

あたしを好き…?


友達としてではなくて…?

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