その参

第45話

春は過ぎ行き、夏を迎え、いよいよ今週末から夏休みに。

進学組、就職組、それぞれ忙しそうにしている。


あたしは卒業後は親戚のおじさんが営む本屋さんに就職…もとい、お手伝いをする予定だ。

進学は考えなかった。

やりたい事もないし…。


彼女と逢わなくなってから、1週間が過ぎた。

時間の流れは速いなあと、何処か傍観している自分がいた。


1人でいる時間が増えた。

違う、元に戻っただけだ。


1人はこんなに静かだっただろうか。

誰と話す訳でもなく、学校での時間は瞬く間に過ぎていく。


彼女を見掛けた時があった。

が、声を掛ける事は出来なかった。

掛ける勇気もなかった。

拒絶が怖かった…。


放課後は変わらず図書室に出向いた。

もしかしたら、彼女に逢えるかもしれないという、淡い期待を抱いていた。

しかし、彼女が現れる事はなかった。


午前中に学校が終わる。

帰る仕度をし、図書室に行こうとした時だった。


「舞」


名前を呼ばれた。

声がした方を見てみる。


「最近瞳や萌と一緒にいないね」


宮本さんが声を掛けてくれた。


「あ、うん…」


「何かあった?」


彼女にキスをされそうになった事を、さらりと言える筈もない。

あたしは黙ったまま、口を閉ざしてしまった。


「ね、一緒に帰ろっか。

 腹減ったし、どっかで飯でも食べてかない?」


まさかのお誘いに驚く。


「あ、あたしと!?」


「舞以外に声掛けてないじゃん」


宮本さんはクスリと笑う。


「他の人と予定入ってた?」


予定はない。

母親は今日は出掛けると言ってたし、昼食は適当に済ませようと思っていた。


「予定はないよ」


「そっか、良かった。

 何食べよっか。

 あっついし、冷たいのがいいよね」


そんな会話をしていると。


「ま~あ~ちゃ~ん~」


のんびりとした声が、あたしの名前を呼んだ。


「萌さん!」


高橋さんは、ニコニコしながらあたし達の所にやって来た。


「も~、この1週間逢えなくて寂しかったよ~。

 今日はひ~ちゃん部活だから、一緒に帰ろ~」


「あ、あの、あたし真美さんに…」


「萌も一緒に昼飯行くか?

 うちらこれから昼飯行こうかって話してたんだ」


「行く行く~。

 アタシは冷やし中華が食べたいなあ」


「お、いいね。

 じゃあ、駅前のラーメン屋行こう」


かくして、3人で昼食をとる事になったのだった。

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