第43話

沈黙。

気まずさと恥ずかしさ、戸惑いが入り交じる。

言葉もないまま、お互いにどうしていいのか、どう切り出していいのか解らないまま、時間だけが過ぎていく。


何を言えばいいのだろう。

どんな顔をすればいいのだろう。

自問自答をすればする程、答えは遠退いていくような。



「ごめん……」



彼女の掠れた声が、ポツリと聞こえた。

下げていた顔を上げると、先程の赤い顔ではなく、悲しみを帯びた表情を浮かべている。


泣き出しそうな、切ない表情のまま、彼女は顔を下げたままだった。


「あの、あたし…」


「本当にごめん…!」


あたしの言葉を遮るように、彼女はあたしの言葉に被せる。


またしても沈黙。

どんな言葉を言えばいいのか、解らないままだ。


「瞳さん、あたし…」


その先が続かない。


彼女は…あたしの事が好きなのだろうか。

それは友達のそれではなく…。


自惚れだろうか。

…いや、あたしが彼女なら、本当に好きな人でなければ、キスをしようともしたいとも思わない。


急に凄く恥ずかしくなる。

まさか、そんな…いや、でも…。



あたしは、彼女に恋心を抱いていたという確証を得た。

彼女が、あたしに恋心を抱いていたという事に気付いた。


だって、地味で取り柄もないあたしなのに。

そんなあたしに、どうしてこんなに素敵な人が、あたしに好意を?

解らない…解らない…。


いろんな想いが、考えが、頭の中でぐるぐると巡り回る。

まずどれから手をつければいいのだろう。


胸を騒がせていたのは、彼女に対する想いが反応していたから。

彼女を知れば知る程、あたしの心は奪われていた。

これが『恋』…?


気付いてしまった。

知ってしまった。

これまでよりも、胸が高鳴ってしまって。


愛しさが、恋しさが寄せては返る。

この気持ちを、彼女に伝えられたら。


彼女に1歩近付いてみる。

が、彼女は驚きながら1歩下がる。




胸がズキンと痛む




拒否…されているのだろうか。

次から次へと、いろんな気持ちが流れ込んでくる。


「あっ…」


明らかな戸惑い。

彼女の瞳が揺れてる。


足がすくむ。

あたしが1人で思い上がっていただけなのだろうか。


彼女の瞳を見るのが怖くなる…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る