第41話

彼女との距離が近い。

優しい瞳が、あたしを優しく見つめている。

吸い込まれそうになる。

あたしの胸は相変わらず、ドキドキしっぱなしで。


彼女の右手があたしの頭に触れると、いつものように優しく撫でてくれた。

彼女の手が、温もりが、あたしの不安や恐怖を、そっと拭ってくれているように思えた。


どうして彼女はこんなにも、あたしを気に掛けてくれるのか。

どうして彼女はこんなにも、あたしに優しくしてくれるのか。

他の友達にも、こうして接しているのだろうか。


もししているのなら、少し寂しく思う。

彼女を独り占めしたい…という訳ではなくて。

上手く言葉に出来ないのだけど、自分だけにこうしてほしいと思う自分がいて。

それが何でなのかは解らないし、それは結局独り占めになるのも解っているのだけど。




あたしは彼女と、もっと一緒にいたくて




もっと沢山お喋りしたい。

あたしが知らない彼女を知りたい。

もっと2人の時間が欲しい。

もっと…もっと……。




あたしは彼女の傍にいたい




どうしてそう思うのだろう。

どうしてこんなにも、彼女を欲するのだろう。

この気持ちは、この想いは、何処から来るのだろう。


「あっ、ごめん、早く家に送らなきゃ!

 家の人、心配してるよね」


彼女は我に返った素振りを見せ、あたしから少し離れた。

そして、再びあたしの右手を取り、そっと繋ぐとゆっくり歩きだした。


あたしの家まではもう少し。

家に着いたら、彼女は帰ってしまう。

もう少し…もう少しだけ、一緒にいれたらと思う自分は、きっと我儘過ぎるし自分勝手と言われるだろう。


また学校で逢える。

それは解っている。

けれど、今この時間を共にしたくて。


彼女はどんな気持ちでいるのだろう。

歩きながら、彼女をちらりと見てみる。

真っ直ぐに前を見ている、その横顔が素敵で。


繋いでいる手に、ちょっとだけ力を入れてみた。

気付いた彼女が、あたしの事を見る。

あたしは照れくさくて、目線を下に下げた。


彼女は何も言わず、あたしと同じように手に力を入れ、強く握り返してくれた。

それはまるで、『離さない』という意を表しているかのように。

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