第39話

「…真美のお父さん、本当に警察だったのかな」


「解らない…」


「あ、足は平気?」


「うん、軽く擦りむいただけだから大丈夫だよ」


「じゃあ、帰ろっか」


そう言うと、彼女はあたしの右手を取った。


「家まで送るよ」


「だ、大丈夫だよ。

 瞳さん、帰るの遅くなっちゃうし…」


「うちに帰っても、親はまだ仕事で帰ってないからさ。

 それに、1人で帰れる?」


言われて、ドキリとする。

1人で帰れるとは言いきれなかった。

さっきの出来事が尾を引いていて、まだ怖さが体を包んでいたからだ。


あたしが黙っていると、彼女はあたしの手をしっかりと握り、「行こっか」


ゆっくりと駅へと歩いていく。

いつもの街並み。

いつもの人混み。

先程の出来事がなかったかのように、時間は世界はいつも通りに動いている。


電車に乗り、特に会話もないまま、あたしが降りる駅に到着した。

行き方を伝えながら、歩いていく。


今日はいろんな事がありすぎて、頭と心が少々疲れてしまった。

今夜は早く寝よう。

心身ともにゆっくり休めようと思ったが、寝れるかどうかは解らない…。


そうだ、彼女に謝らなくちゃ。

助けてくれたのに、お礼の1つも言っていなかった。


「あ、あのっ」


あたしが足を止めると、彼女も足を止めた。


「その、助けてくれてありがとう…」


「私は何もしてないよ」


そんな事ない。

全身であたしを守ってくれた。


「あたしがちゃんとお店で待ってれば、こんな事にならなかったかもしれないのに…」


「どうして店にいなかったの?」


それは…。


「…早く、瞳さんに逢いたくて。

 何で解らないんだけど、凄く瞳さんに逢いたくて、いてもたってもいられなくて。

 萌さんは先に帰っちゃって、待ってようと思ったんだけど…」


そう、いてもたってもいられなかった。


「お店を出て、学校の方に向かえば瞳さんに逢えるかなって思って。

 人混みの中で瞳さんを探してたら、あの男の人と目が合って、すぐに反らしたんだけど、追い掛けられて…。


 怖かった…凄く怖かった。

 けど、瞳さんがあたしの名前を呼んで、現れて、あたしを助けてくれて…。

 瞳さんの声がした瞬間、怖かったのに安心して…」

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