第38話

「おいっ、てめえ何撮ってやがる!」


男の人が誰かに向かって叫んだ。

あたしや彼女に対してではない。


男の人の視線を追ってみると、そこには携帯をこちらに向けていた宮本さんがいた。


「撮るなっつってんだよ!」


乱暴に彼女を解放すると、男の人は宮本さんの方へ向かった。


「大事な証拠はちゃんと残さなきゃじゃない?

 か弱い女子高生に、横暴で乱暴な態度を取るなんて、随分大人げないねえ」


一見にっこりと笑っているようにも見えたが、それが冷笑である事に気付くまで、時間はかからなかった。


「この動画、SNSで拡散しようか。

 それとも…」


口角を上げながら。


「うちの父親に見せるか。

 うちの父親、警察だからすぐに対応してくれるからさ」


男の人は、一瞬たじろぐ。


「は、ハッタリかましてんじゃねえぞ!」


「ハッタリだと思うなら試してみる?」


今度は宮本さんの胸ぐらを掴んだものの、宮本さんは携帯を制服のスカートにしまうと、一瞬で男の人に技をかけて倒れさせた。

男の人は何が起きたのか、何をされたのか解っていない様子だ。


「父親から軽く合気道と、柔道を教えられててさ。

 女だからって、迂闊に手出しすると危ないよ?」


言ってから宮本さんは体勢を立て直すと、何処かに電話をかけた。

その間、男の人の片手を締め上げ、言葉通り身動きを取れないようにしていた。


程無くして、パトカーが1台到着した。

車内から2人の警官が出てくると、宮本さんは男の人を引き渡す。


宮本さんがあたし達の元へ来た。


「大丈夫だった?」


「ありがと、助かった」


「ん。

 飯田さんは平…気じゃなかったね。

 膝、擦りむいちゃってる」


宮本さんは鞄からポーチを取り出すと、中から絆創膏を1枚出し、あたしの膝に貼ってくれた。


「応急処置ね。

 家に帰ったら、ちゃんと消毒して」


「あ、ありがとう…」


その後、警官に事情を話す事になり、少々時間を用いた。

やっと解放されたものの、時間は19時を過ぎていた。


「もうこんな時間か。

 うちは先に帰るね」


「真美、色々ありがと」


「宮本さん、ありがとう」


「真美でいいよ。

 じゃあ、また学校でね」


そのまま宮本さんは、駅の方へと歩いて行ってしまった。

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