第36話

「うん、帰る~。

 今度は3人で遊ぼうね~」


やんわりと笑うと、「じゃあ、また明日ね~」

手を振りながら、高橋さんは店の外へ行ってしまった。


状況が掴めず、どうしたらいいのか解らない。

とりあえず、彼女がこっちに来るみたいだから、彼女を待つべきだろう。


暖かかった紅茶が冷めてしまった。

一口飲むと、独特な苦味が口の中に広がる。


彼女の過去。

自分とは違うものの、辛さは解る。

彼女の痛みを、今尚疼いているであろう傷痕を、少しでも和らげる事が出来たらいいのに。




どうしてだろう

今、物凄く彼女に逢いたい




こんな事は初めてだ。

この気持ちは何だろう。

切なさと歯痒さが、同時に押し寄せてくるような感じ。


早く彼女が来ますように。

彼女の顔を早く見たい。

いつもの笑顔が見たい。


携帯が震える。

ポケットから取り出すと、彼女からメッセが届いていた。



『あと5分くらいで着くよ!』



5分なんてあっという間なのに、早く時間が経てばいいのにと強く思った。

どうしてこんなにも、彼女が待ち遠しいのだろう。


席を立ち、仕度をすると、あたしは店を出た。

店から少し離れた所で、彼女を待つ。


もうそろそろ着くだろう。

彼女はどんな顔で、あたしを見つけるのだろうか。


違う、あたしが彼女を見つけたい。

その場から離れ、学校の方へと歩きだした。


擦れ違う人から、彼女を探す。

似た人を見つけたが、全然違う男の人だった。


目が合う。

慌てて目を反らし、足早にその場を去った。

再び彼女を探していると、後ろから右手首を掴まれた。


「ね、さっき俺の事見てたよね?」


大学生くらいだろうか。

全身から香水の香りが漂う。


「もしかして、俺の事気になった?

 こんな綺麗な子に見つめられたら、すげ~ドキドキしちゃうって」


手首を離してくれない。


「丁度暇してたし、どっか行かない?

 カラオケ行く?

 それとも違う所に行こっか」


顔は笑っているものの、目が笑っていなかった。

怖い。

逃げなきゃ。

早く、逃げなきゃ。


「は、なして下さい」


恐怖から、声を上手く出せない。


「そ~んなに怖がらなくたっていいじゃん。

 俺、怖くないし優しいからだ~いじょうぶ」


腰に手を回された。

どうしよう、怖い…。


「じゃあ、行こっか」


力ずくで歩かされる。


「や、やめて下さい…!」


言うも虚しく、相手はまるで聞いていない。

逃がさないように、腰に回した手に更に力を入れられた。


「最近彼女と別れたばっかでさ~、色々飢えてるんだよね~」


下から舐めるように見られる。

本能が警報を鳴らしている。

携帯を取り出したいが、怖くて動けない。


誰か

誰か助けて…

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