第35話

「ひ~ちゃんもま~ちゃんも、辛い想いをしてきたんだね…。

 過去の事はどうしてあげる事は出来ないけど、楽しい事とか、面白い事、沢山増やしていこ~」


高橋さんの笑った顔を見ると、心が安らぐ。

そして、つられて笑顔になる。


「ま~ちゃん、笑った顔可愛いよね」


また予想をしていなかった事を言われた。


「て言うか、ま~ちゃんは綺麗だよね」


第2波を喰らい、あたしの顔が真っ赤になった。


「そ、そんな事ないから!!!」


やや噛みながら、必死に言うも高橋さんは真剣な顔で。


「ま~ちゃんは綺麗」


見た目を褒められた事なんてない。

可愛いも綺麗も、言われた事なんてない。


「もっと自信を持つべきだよ。

 『アイアムビューチー、イエ~イ!』って叫んだ方がいいかも」


「いやいやいやっ、意味が解らないから!」


勢い余って大きな声を出してしまい、我に返って口を抑えた。

顔はまだ熱い。


そんなあたしを見て、高橋さんは楽しげに笑う。


「まだ知り合ったばかりだけど、ま~ちゃんとはすっごく仲良くなれそうな気がする」


笑いすぎて涙目になっている高橋さんは、指先で涙を拭う。


「普段学校じゃ大人しいけど、今のがま~ちゃんの本当の姿なんだね。

 ひ~ちゃんが見たら、どんな反応するかな」


そういえば、高橋さんとは知り合ったばかりなのに、気兼ねなく話せる。

顔色を伺う事もしなくていいし、何より話しやすい。


彼女と話していると、ドキドキしている事の方が多いかもしれない。

恐怖からくるドキドキではないけど。




恋する乙女みたい




不意に母親の言葉が頭に浮かんだ。

母親があたしと高橋さんが会話をしているところを見たら、同じ事を言うだろうか。


と、テーブルに置かれていた高橋さんの携帯が震えた。


「ひ~ちゃんだ」


そう言ってから、携帯を弄ってから耳に当てた。


「お疲れ様~。

 うん…あ、そうなんだ。

 今ね~、駅前のドーナツ屋さん。

 うん、ま~ちゃんもいるよ。

 そうなの?じゃあ、アタシは先にお暇しようかな~。

 嬉しいくせに~。

 とにかく、早くおいでね~」


通話のやり取りが終わったようで、高橋さんは携帯をテーブルに置いた。


「ひ~ちゃん、部活早く終わったからこっちに来るって」


言いながら、高橋さんは帰る仕度を始めた。


「萌さん、帰っちゃうの?」


その言葉を聞いた高橋さんは、意味ありげに微笑む。

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