第26話

学校では図書室以外で彼女と接する事はない。

彼女を見掛けても、声を掛けるのが申し訳なくて(彼女はいつも友達と一緒にいるし)

彼女があたしに気付かぬ内に、あたしはその場から逃げ出す事がパターンだ。


4限目の授業が終わり、昼休みとなる。

ランチバッグを持つと、あたしは教室を出る。

階段を上がり、屋上の扉を開けば、清々しい青空が広がっていた。


今日もいい天気。

少し暑いものの、僅かに出来た日陰を見つけると、そこに腰を下ろした。


屋上を使う人はいない為、あたしだけの場所になりつつある。

誰彼の目を気にする事もなく、気軽に食事を出来るのがありがたいところ。


母親が作ってくれたお弁当の蓋を開け、箸を用意し、両掌を小さくパチンと合わせ「いただきます」

独り言のように呟いてから、大好物の玉子焼きを食べようとしたその時だった。



「おっ、誰もいない!」



箸で掴んだ玉子焼きが、ポロリと元の場所に戻った。

聞き覚えのある声。



「ひ~ちゃん、そんなに大声出さなくても~」



のんびりとした声がついてくる。


どうしよう。

この場から逃げたいけど、その人物達は扉のすぐ近くにいる。


とりあえずお弁当を片付けなくては。

1人あたふたしていると。



「あれっ?舞?」



聞いた事のある声の主は、やっぱり彼女で。



「お、噂の飯田さんだ~」



いつも彼女と一緒にいる友達だ。

名前は…確か高橋萌さんだった筈。

話した事は…無論ない。


「舞、いつもここで食べてたの?」


「う、うん。

 瞳さんは学食でじゃなかったっけ?

 それより、噂の飯田さんって…?」


「ひ~ちゃん、最近飯田さんの話ばっかなんだよ。

 良ければご飯ご一緒してもいい?」


情報が多い。

何処からピックアップすべきか。


「あ、あたし2人の邪魔しちゃうから行くね」


荷物を纏めようとすると。


「舞、たまには一緒に食べようよ」


彼女の一言で、それまで忙しく動いていた手が止まる。


「そだよ~、一緒に食べよ~」


高橋さんも続く。


「前から飯田さんと話してみたかったんだ」


言いながら、高橋さんはへにゃんと微笑む。

棘のない、柔らかな笑顔。

悪い人ではなさそうだ。


「あたしがいても…いいの?」


恐る恐るの質問に、2人は微笑みながら大きく首を縦に振った。

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