第25話

電話が終わると、あたしはそれまで止まりかけていた呼吸を再開する。

頭に十分に酸素が行き渡るまで、少々時間をいただいた。


「明るそうな感じの声だったね」


食事も再開する。

食べながら、母親はニコニコしながら言ってくる。


「感じの良さそうな子な気がする」


察しがいいな。


「優しくて、明るくて、いつもニコニコしてて。

 あたしの事を気に掛けてくれるんだ」


家族とは違う優しさで。

近すぎず、離れすぎずな距離で。


「舞がそうやって笑ってるの、珍しいね」


何気ない母の言葉。

あたし、そんなに笑ってたのか。


「というか、恋する乙女みたいな顔かな」


飲んでいた味噌汁を、盛大に吹き出してしまった。

危うく口の中のわかめも吹き出しそうになってしまったが、何とか堪えた。


「な、何言ってんの!?」


我ながら素っ屯狂な声を出してしまった。

そして、本日2度目の大声。

彼女がこの場にいたら、きっとお腹を抱えて笑った事だろう。


「電話してる時の舞、凄く嬉しそうだったよ。

 まさに恋する乙女の顔だった。

 そっか~、舞も誰かに恋をするお年頃かあ」


漬物をポリポリと食べながら、さも当たり前のように言う母親。

あたしは『恋する乙女』というワードが引っ掛かり、食事と思考が停止してしまう。


「こ、恋なんてしてないって!」


慌てて否定するも、母親は涼しい顔をしている。


「瞳さんは、女の子だし…。

 そりゃあその辺の男の子より、全然格好いいけど」


そう、彼女は女の子。


「相手が男であれ、女であれ、誰かを好きになるという事は、とても大事な事だと思うよ。

 ご馳走さまでした、舞も早く食べちゃいなさい」


母親は食器を持つと、そのままキッチンへ行ってしまった。


恋?

あたしは彼女に恋をしてるの?

そもそも、恋って何だろう。

疑問符が頭の中でぐるぐる回る。


彼女は友達。

そう、友達だ。

それ以上でも、それ以下でもない。

流石に親友はおこがましいとは思ってるから言わないが…。


ふと、彼女の笑顔が浮かぶ。

思い出すと心の中が温かくなる。

優しい彼女が好きだ。


その好きとは、友達として好きな訳で。

きっとそれは、特別な好きではない筈で。


多分、ない筈…。


あれこれ考えすぎて、上手く頭が回らなくなってきた。

残った食事を食べ、食器を片付け、お風呂に入る。


部屋に戻ると、携帯の通知ランプが点滅していた。

確認すると、彼女からメッセージが。



『舞の家に遊びに行くの、楽しみにしてるね』

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