第24話

「ねえねえ、舞の友達さ、うちに連れておいでよ」


ある日の夕飯時。

その日は父、姉は仕事で帰りが遅くなるので、先に母親と食べていた。


「えっ、何で?」


「あたしも瞳ちゃんに逢ってみたいし。

 舞がお世話になってるし、日頃のお礼も言いたいじゃない」


いつも明るく元気な母。

あたしとは対照的に、ポジティブな人。

姉も母親に似ている。

なつっこい笑顔が印象的で、自分もこんな風に笑えたらいいなと思ったり。


「瞳さん、休みの日も部活があったりするからなあ」


多忙な彼女に『うちに遊びに来ない?』なんて言ったら、大事な予定も蹴飛ばして、あたしの誘いを受けてくれそうな気がする。

…いや、流石に自惚れすぎか。


と、そんな時だった。

何かが鳴っている音が聞こえた。

これは携帯のバイブの音だ。

あたしも母親も同時に確認する。



「あ、瞳さんだ」



メッセではなく電話だった。

持っていた箸をテーブルに置き、応答ボタンをフリック。


「も、もしもし」


『もしもし、今電話大丈夫?』


「うん、大丈夫。

 どうしたの?」


あたしと彼女の電話でのやり取りが始まると、母親はニコニコしながら見守っている。

何だか些か恥ずかしい。


『今本屋さんにいるんだけど、さっき図書室で話してた、本のタイトル何だっけ?

 ど忘れしちゃってさ』


「チョコレートと蜜指だよ」


『…あっ、あったあった!

 ありがとう、助かったよ』


「それなら良かった」


次の会話を探していると。



「瞳ちゃん!今度うちに遊びに来てね!」



叫んだのは、母親だった。

あたしも彼女も、僅かに時が止まる。


『えっ?ええっ!?』


先に声を出したのは彼女だった。

表情等は見えないが、戸惑っているのは声だけで十分に解る。


『も、もしかして、舞のお母さん!?』


「ひ、瞳さん、ごめんね!?

 お、お母さん、急に割り込んでこないで!」


あたしの言葉を聞いているのかは解らないが、母親は呑気にけらけら笑っている。


『あ、舞が大声出した。

 初めて舞の大声聞いたよ』


彼女もクスクス笑っていて、あたしは1人でテンパっている。


『家に遊びに行ってもいいの?』


落ち着いた声で、あたしに聞いてくる彼女。


「ひ、瞳さんさえ良ければ…」


『じゃあ、今度お邪魔させてもらうね』


顔を見なくても解る。

彼女がいつものように、優しく微笑んでいる事を。

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