第22話

あれこれ考えている内に、駅に着いてしまった。

彼女は上り、あたしは下り。

乗る電車は別々だ。


改札を抜け、ホームに着くと、人は疎らだった。

椅子に並んで座る。


「今日はありがとう」


あたしが言おうと思った言葉を、彼女に先を越されてしまった。


「こちらこそ、ありがとう」


「弁当、本当に美味しかった。

 また食べたいな」


「瞳さんさえ良ければ、また作るよ」


自分のお弁当を、あんなに美味しそうに食べてくれたのが嬉しかった。


「うん、楽しみにしてる」


にっこりと微笑む彼女の笑顔は眩しい。


「ねえ、舞」


名前を呼ばれる。



「また、デートしようね」



まさかの発言にどぎまぎしてしまう。


「あ、あたしなんかで良ければ!」


顔を真っ赤にしたあたしを見て、クスリと彼女が笑う。


「今日はいろんな舞を見れて嬉しかった。

 2人だけで過ごせると思わなかったから、ちょっと浮かれすぎててさ。

 迷惑掛けてないか、ちょっと心配してた。

 五月蝿すぎたらごめんね」


「迷惑なんて掛けてないよ!

 むしろあたしの方が、挙動不審でごめんね。

 あたしも浮かれすぎてた…」


友達と遊びに行ける事の嬉しさに、舞い上がっていたから。


電車がホームに到着する、というアナウンスが流れる。

彼女が乗る電車が見えてきた。


彼女が立ち上がると、あたしを見た。


「もっといろんな舞を知りたい。

 もっといろんな舞を見たい」


いつもよりも、小さな声だった。

電車がゆっくりとスピードを緩める。



「もっと……たい」



電車があたし達の前を過ぎていった為、彼女が何かを言ったけど、聞き取る事が出来なかった。

聞き返そうとするよりも早く、彼女は電車に乗り込んでしまった。


「ほんじゃ、また学校でね」


片方の手をパーカーのポケットに、片方の手をひらひらとあたしに振る。

扉は閉まる。

あたしも慌てて手を振る。

少しぎこちなかったかもしれない。


彼女はいろんなあたしを見れて嬉しかったと言った。

あたしも、いろんな彼女を垣間見れて嬉しかった。


彼女が無意識に見せる表情に、見とれてしまった自分。

思い出すと、胸の真ん中がギュッとなった。


あたしが乗る電車が到着し、乗り込む。

夕陽が眩しくて、少し目を細める。


何もなかった休みが、彼女のお陰で楽しい休みになった。

後でお礼のメッセを送ろう。


彼女の笑顔を思い出し、嬉しさを噛み締めながら家路を急いだ。

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