第21話

片方の手が、あたしの頭に回る。

抱き締められるんじゃないか、そんな事を考えてしまった自分の脳内は、どうなっているのだろう。


鼓動が速くなる。

彼女の指が、あたしの髪に触れる。

鼓動が速くなる。

彼女の指先が、あたしの髪を弄る。

鼓動はなおも速くなる。


「よし、取れた」


彼女の声が近い。


「舞?」


あたしが反応も返事もしなかった為、彼女はあたしの顔を覗き込んできた。

瞬間、あたしは心臓がドッカンといった気がした。


「だ、だじょぶだからっ!」


「だじょぶって何だよ~」


あからさまに動揺しているし、その動揺が彼女にバレている。

そんなあたしを見て、彼女はケラケラ笑う。


「私の顔、何か付いてる?」


付いてますとも。

整えられた眉毛。

長くてふさふさな睫毛。

大きくて綺麗な目。

整った鼻。

少し薄い口唇。


ずっと思っていた。

彼女はイケメンだ。

みんながキャーキャー言う理由も納得だ。


「舞、さっきからどしたん?

 どっか具合悪い?」


彼女の顔が更に近付く。

あたしはいよいよ立っていられなくなり、情けない事によろけてしまった。


刹那、彼女があたしを抱き止める。


時が止まったような気がした。

頭が上手く動かなくて、金縛りにあったかのように体も動かせない。

そんなあたしを、彼女は支えてくれている。


「ご、ごめんなさいっ!!」


何とか言葉を搾り出すも、体は硬直したままだ。

彼女は何も言わずに、首をゆっくりと左右に振った。


彼女の腕があたしの背中に回ったかと思うと、静かに抱き締められた。


お互いに言葉もなく、沈黙が漂う。

あたしは彼女の腕の中で、成す術もないまま。


「あ゛っ、ご、ごめんっ!」


彼女のその一声で、魔法が解けたかのように体が動くようになった。

彼女は素早く腕をほどき、両手を自身の顔に当てる。


「いや、あの、あたしもよろけてすみませんっ」


彼女から1歩下がり、乱れた鼓動と呼吸を整える事に集中する。

手で頬に触れてみると、思っていた以上に熱かった。


「そ、そろそろ帰ろうか」


「う、うん」


ぎこちなく、歩きだす。

さっきのように、手は繋がなかった。


彼女はあたしに歩幅を合わせながら、ゆっくりと歩いてくれた。

近付いてくる駅。

もうすぐ彼女との2人の休みも終わってしまう。

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