第20話

彼女が手を伸ばして、川の水に触れる。


「冷たっ」


すぐに手を引っ込める。


「ここで洗濯したら、桃が流れてくるかな」


「流れてきたら、どうやって桃を捕まえるの?」


「ん~、地引き網?」


「地引き網、ないじゃない」


クスクスと笑ってしまう。

彼女も楽しそうに笑う。


「今日はのんびりだなあ。

 いつもは部活の事とかで頭がいっぱいだけど、こうやって何も考えずにのんびり出来るのはいつぶりかな」


少なからず、彼女はあたしなんかよりも多忙だ。

部活は勿論、友達付き合いとかも。


「貴重な休みを、あたしに使っちゃって良かったの?」


急に不安になる。

もしかしたら、他の友達と遊びに行きたかったかもしれない。

先約だってあったかもしれない。

それなのに、あたしを優先してくれたのだとしたらし申し訳ない…。


屈んでいた彼女が立ち上がり、あたしと改めて視線を合わす。

彼女の優しい瞳に、自分はどんな風に見えているのだろう。


「私の休みを、舞と一緒に過ごせるのが嬉しい」


微笑みながら、彼女はあたしに言う。

相変わらず、手は繋いだまま。


不意に風が強く吹き、目を瞑ってしまった。

片方の手で乱れた髪を直し、彼女を見ると、少し長い前髪を指先で直していた。


少し視線を下に向けていて、睫毛が影を作っていた。

目を細めながら、目にかかった前髪を直す。

口唇は僅かに開いていて、その口唇がとても色っぽくて。



息をするのも忘れて

彼女に見とれていた



それは瞬きをするよりも

短い時間だったと思う



心が高鳴る

いつもと違う高鳴り



言葉通り

彼女に瞳を奪われていた自分がいた



「どした?」


彼女の声で我に返る。

胸はドキドキしていて五月蝿くて、鼓動の音が彼女に聞こえていないか心配になる。


「な、何でもないっ」


慌てて顔を左右に振る。

そんなあたしを見た彼女は、先程と同じように微笑む。


「髪に葉っぱ付いてるよ」


言いながら、彼女はあたしに近付いた。

ビックリして、思わず彼女の手を強く握ってしまった。


洋服から柔軟剤の香りがする。

その香りが鼻をくすぐる。

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