第19話

彼女はあたしが作ったお弁当を元気よく食べた。

男の子のようにもりもり食べていて、その姿を見ていたら、作った甲斐があったと嬉しくなる。


「ご馳走さまでした!」


両手を自身の顔の前でパチンと合わせる。


「お粗末様でした」


そう言って、軽く頭を下げた。


「うお~っ、お腹いっぱいだあ!」


膨れたお腹を擦りながら、満足そうに声を発する。


こんなに楽しく食事をしたのは、一体いつぶりだろう。

勿論家族との会話は楽しいけど、それとはまた違くて。


外の風は気持ちよく、なんて事のない日曜日が特別なもののように思えてくる。

彼女が隣にいる事も関係しているのかな、なんて思ったり。


お弁当箱を片付け、ゴミを捨てに行こうとすると、捨ててくるよと彼女はあたしの手からゴミが入った袋を取り、そのまま捨てに行ってくれた。


「腹いっぱいだし、ちょっくら歩こうか。

 お散歩しましょ」


戻ってきた彼女は、嬉しそうにそう言った。

あたしも少し歩きたいなと思っていたから、ありがたいお言葉だった。


ベンチから立ち上がろうとすると、彼女はあたしに右手を差し出す。

キョトンとした顔で、彼女の顔を見てみる。

彼女は笑顔を絶やさず、あたしが手を取るのを待っているようだった。


恐る恐る、彼女の手に自分の右手を重ねてみる。

あたしよりも少し大きなその手は、あたしの手を優しく包み込み、立たせてくれた。


「じゃ、行こっか」


手を繋ぎ、歩きだす。

あたしはされるがままだった。


手を離すのも申し訳ない気もするが、なかなかどうして恥ずかしい。

けれど、その手から伝わる彼女の温もりが心地いい。


特に会話もないまま、公園内を歩いた。

子供の楽しそうな声が聞こえてくる。


公園を出たあたし達は、何処に向かうでもなく、道行くままに歩いた。

相変わらず、手は繋いだままで。


暫く歩いていると、川の方に出た。

川原の方に行ける階段を見つけると、どちらともなくそちらへ歩いていった。


川の近くまで行くと、水が近くにあるせいか、風が少し冷たかった。

が、あたしの頬の火照りを冷ますには丁度良かった。


「川の水、結構綺麗だね」


久し振りに彼女の声を聞いたような気になった。


「うん、そうだね」


川のギリギリまで行くと、彼女は屈んで川を覗き込む。

水はそこそこに透き通っていて、水面は太陽の陽に照らされ、キラキラと輝いていてとても綺麗だった。

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