第18話

「瞳さんは?」


私も質問をしてみる。

すぐに返事がくるものだと思っていたが、待てど暮らせど返事がこない。

不思議に思い、彼女の顔を見てみると、頬を赤くしながら照れていた。


「いやあ…う~ん、そうだなあ」


言いながら、右手の人差し指の先で右頬を掻く。


「優しくて、私と一緒にいたいと思ってくれる人かな」


きっと彼女と一緒にいたいと思う人は、沢山いる筈だ。

彼女がいるだけで、その場の空気が明るくなるし和む。

誰にとっても、必要な存在ではないかと思う。


「瞳さんは誰からも好かれるし、すぐに彼氏が出来るよ」


自分で言った言葉に、少しだけ胸が痛んだのは何故だろう。

…そうか、彼氏が出来たらあたしとは疎遠になっていくだろうし、こうして逢ったり話す事も減っていく。

それが寂しいんだ…。


「そんなに寂しそうな顔しちゃってどうしたの?」


彼女がキョトンとした顔で、あたしの顔を覗き込む。


「瞳さんに彼氏が出来たら、こうやってお喋りする事も逢う事もなくなるだろうから、凄く寂しいなって」


いやいやいや、なんて自分勝手な事を言ってしまったのだろう。

謝らなきゃ。


が、当の本人は先程よりも顔を赤くしていた。

しかも、心なしか嬉しそうに照れている。


「わ、私は彼氏はいらないし、作る気もないよ」


あたしから視線を外し、相変わらず照れたまま言葉を発する。


「今はこうやって、舞と逢ったり喋ったりしてる方が楽しいし嬉しい」


木の隙間から僅かに差し込む陽射しが、彼女の頬をそっと照らす。

それは、まるで向日葵が太陽の陽を浴びているように思えた。


「舞は私と一緒にいると楽しい?」


顔をやや下げた体勢であるせいか、上目遣いにも見える。


「うん、楽しい」


久々に家族以外の人と、こうしてお喋りしたり出掛けたりする事が出来て、本当に嬉しくて。

実を言えば、昨日は浮かれすぎてなかなか寝付けなかった。


彼女はあたしの言葉を聞くと、ふにゃんと柔らかい笑顔を浮かべた。


「ありがと」


短い言葉を、ゆっくりと丁寧にあたしに伝えてくれた。

その言葉を、あたしは心に飾りたい衝動に駆られる。


言葉は刺さるだけのナイフではなく、人の心を包み込む力もある事を知った。

いや、彼女があたしに教えてくれたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る