第16話

「はい、あげる」


ベンチに腰を掛けると、彼女は背負っていたリュックから、お茶が入ったペットボトルをあたしに差し出した。


「お金払うよ」


「うちにあったやつ持ってきただけだからいらないよ」


そう言って彼女はもう一本ペットボトルを取り出し、蓋を開けて1口飲んだ。

あたしもそれに習い、お茶を1口飲んだ。


「舞の格好、可愛いね。

 凄く似合ってるよ。

 髪結んでるの、初めて見た」


服装を褒められ、少しばかし照れてしまった。


「瞳さんはボーイッシュな格好が好きなの?」


「そだね~、好きかも。

 スカートは嫌いじゃないけど、どちらかと言えばパンツ派かな。

 スカートはひらひらするし、パンツ見えそうになるしめんどいと言うかさ」


彼女らしい理由だなと思い、ちょっと笑ってしまった。


「舞は休みの日は何してんの?」


「図書館に行ったり、家族と買い物に行ったりとか」


「私は部活だったり、友達と遊びに行ったりとかかなあ。

 あ、家に引き込もって、ひたすら本読んだりもするよ」


他愛のない会話。

ぎこちなさも少しずつ取れて、所謂普通の会話が出来るようになった。


「そろそろ腹減ったね。

 何か食べに行く?」


「あ、あの、あたし…その、お弁当作ってきたの」


「うっそ、まじで!?

 食べたい食べたい!」


「この前栞を貰ったから、そのお礼と言うか。

 これはお母さんが作ったゼリー。

 娘と仲良くしてくれてありがとうって言っといてって…」


「何か照れちゃうなあ。

 お母さんにお礼言っといて。

 私と仲良くしてくれて嬉しいですも伝えておいて」


お弁当を入れていた鞄から、彼女用のお弁当を取り出して渡した。

彼女はとても嬉しそうな顔をして受け取る。


「弁当開けてもいい?」


「うん…」


家族の為に料理を作る事はあるが、友達の為に作ったのはこれが初めてだ。

一生懸命作ったが、味や見た目の良し悪しが不安なところ。


「すげ~美味そう!」


蓋を開けるなり、彼女は目を輝かせる。

そして、彼女はパーカーのポケットから携帯を取り出し、お弁当の写真を撮った。


「は、恥ずかしいから撮らないで!」


「や~だよ、ちゃんと残しておきたいもん。

 友達が弁当作ってくれたの、初めてだから凄く嬉しい」


そう言って、彼女は顔を綻ばせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る