第12話

結局卒業するまで、保健室で過ごす事になったが、誰も何も言わなかった。

相田先生も嫌な顔をしないで、あたしを受け入れてくれた。

唯一の優しい居場所。

あたしを拒絶しないでくれた場所。


3年になり、進路を決めなくてはならなかった。

出来れば、誰も行かないような高校に行きたい。

相田先生に相談してみた。


「飯田さんは成績もいいし、ここの学校に行ってみたら?

 電車通学になっちゃうし、少し遠いけどおすすめだよ。

 女子校だし、制服は可愛いし、いいんじゃないかな」


次の日に相田先生は、学校の資料を見せてくれた。

あたしの家からは、30分くらいかかる。

けど、知り合いがいないのならば…。


「そこまで校則もキツくないって聞くし。

 飯田さんさえ良ければ、受けてみたらどうかな」


県立の女子校だし、私立のようにお金はかからない。

家族に相談してみたら、「舞が行きたいなら頑張りなさい」と背中を押してくれた。


家族にはあたしが保健室に通っている事を話してあったが、クラスに戻りなさいとは1度も言わなかった。

それが救いだったし、ありがたかった。

あたしを否定しないけど、駄目なところはちゃんと説明してくれるし叱ってくれる。


それから更に勉強を頑張った。

家にいる時も保健室にいる時も、時間の限り頑張り、見事に合格する事が出来た。

家族よりも先に先生に伝えたくて、すぐに保健室に向かって先生に報告した。


先生は泣いて喜んでくれた。

あたしの事を抱き締めて、「よく頑張ったね、偉かったね」と更に泣いた。

あたしも堪えきれずに泣いた。


卒業式の日。

式には出ずに、保健室にいた。

最後くらいは…とは思ったものの、怖さが先に出てしまい、式場である体育館に向かう事は出来なかった。


「はい、卒業おめでとう!」


相田先生から、可愛くラッピングされた、布製の袋を貰った。


「あたしからの卒業祝い。

 手紙は今読まれると恥ずかしいから、家に帰って読んでね」


袋の中には手紙が2通入っていた。


「1通はうちの子から。

 字は覚えたてだから、読みづらいだろうけど勘弁ね」


手紙の他に、クッキーが入っていた。


「あたしと子供で作ったの。

 良かったら食べて」


優しさは、こうして形に出来るものなのだと知った。

こんな温かな優しさに触れる事が出来たのは、とても幸せな事だった。

嬉しくて嬉しくて、何度もお礼を言った。


こうしてあたしは中学を、保健室を卒業したのだった。

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