第11話

後にも先にも、教科書や上履きを隠されたのはそれっきりだった。

しかし、同時にあたしは本格的にクラスに居場所を失くした。


1人に、独りになったのはこれが初めて。

何とも言えない心細さが、あたしの心を灰色に染めていった。


給食の時間は班を作って食べるのだが、あたしを除く人達は楽しそうにお喋り。

あたしを話にいれないように、目で合図をしながら話していた。




そう、それから人の目に怯えるようになって




話したかった。

でも、出来なかった。

反応が怖かったし、苛められるんじゃないかと思った。


クラスにいる事に息苦しさを覚えたあたしは、逃げるように保健室に向かった。

いつしか保健室にいる時間が増えていった。

担任は何も言ってこなかった。


保健室の先生は相田先生と言い、30代くらいの女性で、長い髪を綺麗に束ね、背筋をピンと伸ばし、モデルのようなスラッとした体型の人だった。

男子からも女子からも人気で、全校集会等で先生がいると、いつも囲まれていた。


あたしが保健室に通うようになり、先生と過ごす時間が増えた。

先生はいつもニコニコしていて、優しく接してくれた。

「みんなには内緒だよ」と、飴やお菓子をくれる事もしばしば。


授業に遅れないように、空いてる先生が時間がある時に保健室を訪れ、勉強を見てくれた。

理数系は苦手だったけど、一対一だったせいか、解らないところは解るまで聞く事が出来た為、克服する事が出来た。

先生達に褒められるのが、とても嬉しかった。


ある日。

与えられた課題を終え、読み掛けだった本を読んでいた時の事だった。


「飯田さんは読書が好きなんだね。

 小さい頃から好きだったの?」


一仕事終えた相田先生が、あたしに声を掛けてきた。


「はい、よく絵本を読んだりしてました」


絵本は沢山読んだ。

お気に入りの本は、何度も読んだ。


「うちの子がひらがなを覚えてきたから、そろそろ絵本を買ってあげようかなと思ってるの。

 おすすめはある?」


あたしは頭の中の絵本の本棚から、絵本をチョイスし、その本の良さを伝えた。

自分でも気付かないくらい、夢中になって。


先生はあたしの話をちゃんと聞いてくれて、本のタイトルをメモに書いていた。

後日あたしが勧めた本を買ってあげたら、すぐに気に入って毎晩読んでくれとせがまれてるんだと、彼女は笑いながら教えてくれた。

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