第10話

その日の夜の事。

夕飯を食べ終わり、お風呂を済ませ、自室に戻り、鞄から取り出したのは彼女から貰った栞。


改めて見てみる。

どうしてこれを、あたしにあげようと思ったのだろう。

誕生日でもないし、まして流石に誕生日は知らない筈。

誰にも教えてないし。


今日は前回より、沢山話せたと思う。

「誰かと話す」というものとは、程遠かった日常。

しかし、彼女が表れて少しだけ変わった。


話してる途中、感極まって泣いてしまい、彼女を困らせてしまった。

彼女もきっと、戸惑った事だろう。


差し出してくれたタオルは。


「洗って返すね」


「そんなんしなくて平気だよ」


彼女は笑いながら手を振ったけど、涙で濡らしてしまったから洗いたかった。

悲しみにも似た感情が付いたタオルを、彼女に返したくなかった。


そういえば。

彼女の発言や行動に、心が高鳴ったのは何でだろう。

考えてはみているのだが、答えに辿り着く事がない。


何かの病気だろうか。

いやいや、流石にそれはないだろう。

体は割りと丈夫な方だし。


彼女があたしの頭を、優しく撫でてくれた事がふと脳裏に浮かんだ。

綿毛を撫でるかのように、優しく触れる彼女の手は、とても柔らかくて。

その感触が、今も残っていてくすぐったい。


また撫でてくれるだろうか。

撫でてくれたら嬉しい…なんて、おこがましいし図々しい事を考えてしまった。

ちょっと仲良くなったくらいで、そんな事を考えてしまうなんて。



友達



久々に心に響いた言葉だなと思った。

小学生の頃は、友達はそれなりにいた。

休み時間はお喋りしたり、好きなアニメや漫画の話をしたり。


中学生になった頃。

本ばかり読んでいるあたしを、男子達はよくからかってきた。


「根暗」


「オタク」


「地味」


男子達にからかわれているのを、女子達はクスクスと笑った。

仲の良かった子達も、新しく出来た友達と関わりだしてから、あたしと距離を取るようになった。


あたしは誰にも迷惑を掛けずにいたのに。

どうして周りは、あたしを放っておいてくれないのか。


教科書、上履きを隠された時は担任に言った。

けど、返ってきた反応は、見事な裏切りというか。


「みんなちょっとからかっただけじゃないか?

 飯田もやり返すくらいの気持ちでいないとさ」


笑いながら言われた。


「俺も忙しいし、そのくらいの事でクラス会議は出来ないしさ。

 きっとすぐに収まるよ」

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