第7話

受け取る事をせずにじっと見つめていると。


「これ、あげる。

 気に入るかは解らないんだけどさ」


目が『どうぞ』と語っていた為、躊躇いつつもそっと受け取った。

テープを外し、袋を開けてみると。


「…栞?」


透明な袋に入った、白いプラスチックの栞。

アリスの絵が描いてあって可愛らしい。


「舞に似合うかと思ってさ」


照れくさそうにしながら、彼女はそう言った。

さらっと名前で呼ばれたし、呼び捨てだ。

何だか気恥ずかしくなる。


栞を見つめたままでいると。


「も、もしかして気に入らなかった?」


不安げな顔をしながら、あたしの顔を見つめる彼女。

あたしははっとして、顔を思い切り左右に振った。


「凄く、可愛い。

 アリス…好きなの。

 だから、凄く嬉しい」


自分の気持ちをそのまま告げてみる。

すると、彼女は見る見る内に頬の筋肉の緊張が解かれていき、言葉通り綻んだ顔になった。


「そっかあ、それなら良かったあ」


とても嬉しそうに微笑む彼女を見ると、どうしてか僅かに胸がときめいた。

ときめいた理由は解らない。


「今日はどんな本を読むの?」


「これ…」


「あ、作者の名前は知ってるけど、その人の本はまだ読んだ事がないんだ!

 面白い?」


彼女は元気よく食い付いてきた。

本の面白さ、作者の本が図書室にある事を伝えると。


「じゃあ、おすすめ教えてくれる?

 借りていこっと。

 読んだら感想教えるね。

 あ、メッセージアプリはやってる?」


やってはいるが、家族との連絡手段として使うくらいで、友達と楽しくお喋り…なんて事はした事はない。


「じゃあ、ID交換しようよ」


「えっ、あたしと!?」


思わず大きな声を出してしまった。

そんなあたしを見た彼女は、楽しそうにけらけらと笑う。


「舞以外ここにいないじゃん。

 あ、勿論無理にとは言わないよ」


制服のジャケットのポケットから取り出した携帯をしまおうとした彼女に。


「あ、あたしで良ければ…」


またしても嬉しそうな顔になる。

何がそんなに嬉しいのかまでは解らなかった。


「よし、これでOKだね。

 いつでもメッセ送って」


と言われても、何て送っていいのか解らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る