第6話

彼女と再会したのは、あの日から1週間程経った頃だった。

今日も天気がよくて、窓から入る風が気持ちいい。


この前読んだ本を棚に戻すと、気になっていた本を手に取る。

少し前にデビューしたばかりの、自分と差程年齢が変わらない作者の本。

ずっと携帯小説を載せていたが、光が当たり、才能が認められ、華々しくデビューした期待の新人。


携帯小説は何作か読んだ事がある。

修学旅行に行った高校生達が、謎の死を遂げる。

死体の傍には必ずタロットカードが置かれており、その意味を主人公が突き止め、犯人を探していく、というものだ。


背景の描写、人物の細かい動き等が、繊細に書かれているが、回りくどくないのが味だった。

人物の心情もリアルに綴られていて、すっかり魅せられてしまったのだった。


デビュー作は、とある探偵が事務所に依頼に来た女性と、殺人事件があった山へ行くのだが、般若の面を被った人物に襲われ、危うく命を落としそうになる。

殺人事件と謎の般若の面を被った人物。

1つ1つ紐を解きながら、果たして事件を解決する事は出来るのか…。


ミステリーが好きなあたしには、たまらない誘い文句だった。

厚いハードカバーには、【期待の小説家が、華麗にデビューを飾る!】と大きく書かれた帯が。

有名な作者からのメッセージも添えられており、期待度の高さを十分に窺えた。


いつもの席に向かうと、既に先客が向かいの席に座っていた。

ナチュラルな茶色い髪が、さらりと動いたと思うと、静かに顔がこちらに動き、瞳があたしを捕らえると、目を細めて微笑んだ。


「おひさ」


あどけない笑顔は、相変わらず眩しい。

自分もこんな風に笑えたら、少しは人生が変わっていただろうか。


「こ、こんにちは」


「お元気そ~で何より」


笑顔を絶やさずに、早口であたしにそう告げる。


恐る恐る彼女の向かいの席…いつものあたしの席に座ると、彼女はそれまで読んでいた本に栞を挟む。

そして、自身のリュックから茶色い紙袋を取り出し、あたしに差し出した。

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