第4話
「その本、私も読みたかったんだ」
にっこりと微笑む彼女は、とても眩しかった。
真夏の太陽に照らされている、向日葵のよう。
「前々回の作品…あ~っ、名前が出てこないや。
それを読んでから好きになったんだ」
「えっと…【箱庭のエデン】」
「そうそう、それっ!
最後のどんでん返しには、本当にびっくりしたんだ!
まさか主人公が犯人だとは思わなくてさ~っ!」
ハキハキとした、聞き取りやすく心地よい声が大きくなる。
先程よりも目蓋を大きく開き、言葉通りヒートアップしているようだった。
「…あっ、ごめん。
急に大声出してごめんね。
何か嬉しくなっちゃって…」
照れながら頭を掻く。
本日何度目かの謝罪。
彼女の頬は真っ赤なさくらんぼうのようだった。
「こうやって誰かと、本の事で話したのって、多分初めてで。
凄く嬉しくなっちゃったんだ。
私は本が好きで結構あれこれ読むんだけど、周りに本を好きな人がいなくてさ。
それに私が本が好きって事、みんな知らないし。
自分の事ばかり話したがる人ばっかりでさ、笑いながら聞き流してばかり。
自分が興味のない話程、つまんないもんはないよね」
椅子の背もたれに大きくもたれながら、彼女はそう言った。
確かに、興味のない話を延々とされるのはつまらないし、一方的に話されるのも嫌なものだ。
「だからさ、こうやって飯田さんと本の話が出来て、凄く嬉しいんだ」
心からの気持ちを、余す事なく言葉にし、それをあたしに伝えてくれているのが解る。
それがくすぐったくて、何だか気恥ずかしい。
「本はいいよね。
読み始めた瞬間から、まるで自分が本の主人公になったかのような気になれる。
本の世界に浸れるし、自分だけの時間。
誰にも邪魔されない」
まさか自分と同じ考えを、他の人が言うとは思わなかった。
彼女の言葉に、胸が熱くなった気がした。
この高揚は何だろう。
「部活ももうちょっとしたら引退なんだけど…。
怪我してから、大会にも出れないしさ。
退屈で…うん、時間の潰し方が解らなくて」
あれは2年の秋頃だっただろうか。
クラスの人達が、ずっと話をしていたのを覚えている。
「瞳が自宅の階段から落ちて、複雑骨折しちゃって、もう大会にも出られなくなったみたいだよ」
期待されていたエースは、走る事を諦めなくてはならなかった。
まるで翼を折られた鳥のようだと、何処か他人事のように聞いていた自分も思い出す。
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