第90話

「お風呂いただきました」


「おかえり~」


居間に戻ると、茉莉さんとお母さんは缶ビールを飲んでいた。


「花音も寝たし、大人の時間だね」


茉莉さんが嬉しそうに言う。


「私も早くビール飲みたいから、ちょっくら風呂入ってきちゃうわ」


そう言うと先生は、足早にお風呂場へと向かった。


畳に腰を下ろし、2人に頭を下げる。


「先程は浴衣を着せて下さり、ありがとうございました」


「そんなにかしこまらないで大丈夫よ。

 ほら、お腹空いてるでしょ?

 いっぱい食べてね」


茉莉さんから割り箸を受け取り、煮物を1つ取って口に運ぶ。

味が凍みていて、とても美味しい。

誰かが作った煮物を食べたのは、いつぶりだろう。


おにぎりも1つ取って、頬張ってみる。

塩むすびというやつだ。

程好い塩気だし、しょっぱくなくて美味しい。


「煮物もおにぎりも、凄く美味しいです」


「そう?それなら良かった。

 遠慮しないで、たくさん食べてね」


お母さんは、そう言ってにっこりと笑う。


「お祭りも花火も楽しめた?」


「はい、楽しかったです。

 射的も少しやりました」


「姉ちゃん、昔から射的得意だからなあ。

 雪乃ちゃん、何か取ってもらった?」


「お菓子を取ってもらいました」


3人で会話を楽しんでいると、先生が戻ってきた。

手には缶ビールが握られている。


「ふい~っ、さっぱりしたあ」


畳に座り、早速缶ビールのプルトップを開けると、勢いよくビールを飲み出した。


「うんまあ~っ!」


「涼ちゃん、おっさんくさいよ」


「チャラ男の次はおっさんか」


機嫌がいいようで、あたしの言葉に対し、けらけらと笑う。


「雪乃ちゃんはお酒飲まないの?」


「少しなら飲めます」


「よし、じゃあ飲もっか!」


「うおいっ、未成年に酒勧めるんじゃねえよ!」


「夏休みだし、少しくらいいいじゃない!

 自分だって、お母さんの目を盗んで酒飲んでたんだし」


「いらん事バラすなよ!

 って、母さんや、何でビール持ってきちゃってんの!?

 待て待て、白石に渡すなって!」


「すみません、いただきます」


「さっ、うるっさい姉ちゃんはほっといて飲もう飲もう!

 かんぱ~い!」

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