第91話

プルトップを開けると、あたしも勢いよくビールを飲んだ。

冷たいビールが、喉を駆け抜けていく。


「いい飲みっぷり!」


「あ~あ、飲んじまった。

 私は知らんからな」


先生は溜め息を1つ溢す。


「雪乃ちゃんは彼氏はいるの?」


茉莉さんからのいきなりの質問。


「いえ、今はいません」


「可愛いんだから、早く彼氏作ればいいのに」


ビールを飲みながら、あたしに視線を移すお母さん。


「出逢いがなかなかないんです」


適当にはぐらかしてみる。


「そういえば、姉ちゃんは彼氏とどうなったの?」


「春くらいに別れた」


「これでまた結婚から遠退いたね~」


「ほっとけ!」


先生をちらりと見る。


「もう雪乃ちゃんをお嫁さんに貰ったら?」


その言葉を聞いたあたしと先生は、同じタイミングでビールを吹き出した。


「んなっ、何アホな事言ってんだよ!?」


口元のビールも拭わずに、先生は茉莉さんに噛み付く。


「あたしはこんなに可愛い子が、お嫁に来てくれたら嬉しいなあ」


「この際結婚出来れば誰でもいいんじゃない?」


「母さんまで何言ってんよ!」


あたしは何も言えないまま、3人の会話を聞いていた。


「し、白石も黙ってないで何か言えって!」


「え!?

 いきなり話を振らないでよ!?」


戸惑ってしまった。

いきなりすぎる展開に、頭がついていけない。


「佐藤雪乃。

 ほら、しっくりくるじゃん」


「ちょ、茉莉、しっくりさせんなよ!」


「じゃあ、白石涼?

 いや、やっぱ佐藤雪乃だね」


「だあ~っ、もうその話はいいからっ!」


3人の会話を聞いていたら、自然と笑っていた。

そんなあたしを見て、3人も笑った。


大人の時間もお開きになり、片付けを済ませると、あたしは先生に先生の部屋に案内された。


「布団で寝るの久し振り」


「私も久し振りだあ」


2人で布団に寝転ぶ。


「一応言っとくけど、こっちにいる間は腕枕しないからな」


「解ってるよ」


くすりと笑ってしまった。


「ほれ、疲れてるんだから早く寝とけ。

 電気消すぞ」


開いた窓から、うっすらと波の音が聞こえる。

目蓋を閉じると、眠気が押し寄せてきた。


「おやすみ、涼ちゃん」


「ん、おやすみ」


心地いい眠気に身を任せ、あたしはゆっくりと眠りの世界のドアをくぐった。

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