第89話

よし、上手く撮れた。


「上手く撮れたか?」


こちらに背を向けたまま、先生は声を掛けてきた。


「うん、ばっちり」


「そりゃあ良かった」


「あ、さっき撮った花火の写真送るね」


上手く撮れた花火の写メをセレクトして、先生の携帯に送った。

無事に届いたようで、先生はポケットから携帯を取り出した。


「白石、写真ありがとな。

 浴衣姿、綺麗に撮れてるじゃん」


「え?浴衣?」


慌てて携帯で履歴を確認する。

…やっちゃった。

何ともベタな事をやらかしてしまった。

間違えて自撮り写真まで送ってしまった。


「消して!

 自撮り写真消して!」


先生の元に飛んでいき、先生の携帯を奪おうとする。


「ちょ、おい、あにすんだよ!

 可愛く撮れてんだから消す必要ないだろ!?」


「やだ!恥ずかしい!」


「後で消しとくって!」


「おやおや、何イチャイチャしてんの?」


振り返ると、茉莉さんがタオルで髪を拭きながらにこにこしていた。


「い、イチャイチャしてねえし!」


「あたしにはイチャイチャしてるように見えるけどなあ」


茉莉さんは笑顔を絶やさない。


「花音、あの2人ラブラブだよね~?」


「うん、ラブラブ~」


「だ~っ、花音にまで言わせんなよ!」


先生の顔は真っ赤だった。

今日はよく赤くなるなあ。


「白石、風呂入っておいで」


「う、うん」


鞄から着替えを取り出すと、茉莉さんがお風呂場まで案内してくれた。

浴衣を脱ぐと、解放感に包まれた。

今日だけでどれくらい汗をかいたんだろう。


「雪乃ちゃん、あたしのクレンジング使っていいからね~」


「は~い」


シャワーで全身の汗を流すと、かけ湯をしてから湯船に浸かった。

鼻緒で擦れたところが少々痛かったけど、我慢出来ない痛みではなかった。


全身の力が抜けていく。

久々にゆっくりと湯船に浸かったなあ。


お祭りも楽しかったし、花火も綺麗だった。

あんなに間近に花火を見たのは初めてだったし、迫力も凄かった。


そして、先生とたくさん手を繋いだ。

思い出すと、少し気恥ずかしい。


色々思い出していたら、温まりすぎてしまった。

湯船から上がると、頭を洗い、体を洗ってからお風呂から出た。

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