第88話

フィナーレは何発も何発も花火が上がった。

どの花火も綺麗で、このままずっと見ていたかった程だ。


「花火終わっちゃったし、そろそろ帰るか」


先に先生が立ち上がると、そのままあたしを立たせてくれた。


「足は大丈夫?

 痛くないか?」


「ちょっと痛いかな」


鼻緒が足に擦れて、ちょっとヒリヒリしていた。


「私のサンダル履きな」


自分のサンダルを脱ぐと、あたしの足の前に揃えて置いた。


「涼ちゃんが裸足になっちゃうじゃん。

 石とか、ガラスの破片で怪我しちゃうよ」


「大丈夫だよ。

 ほれ、気にしないで履きな」


先生の根気に負け、先生のサンダルを履く事にした。

先生はあたしが脱いだ下駄を拾う。


「自分で持てるよ」


「いいからいいから」


先生はどんな時でも気配りを欠かさない。


のんびりと帰り道を歩く。

手はもう繋いでいない。


「サンダル大きいなあ」


「白石は足が小さいもんな。

 もうちょいで家に着くから我慢しておくれ」


歩幅をあたしに合わせながら、先生はゆっくりと歩いてくれる。


「あ~、腹減ったな~」


「あたしもちょっとお腹空いてきた」


「帰ったら軽く何か食べよっか」


他愛ない会話をしていると、先生の実家に着いた。


「ただいま~」


「ただいま戻りました」


「おかえり~」


お母さん達は、あたし達よりも先に帰っていたようだ。


「腹減ったんだけど、何か食べるもんある?」


「昨日の残りの煮物くらいしかないわねえ。

 あ、おにぎりでも握ろうか」


お母さんは言いながら、居間からキッチンへと向かう。


「今茉莉達がお風呂に入ってるから、その後お風呂入っちゃいなさい」


「白石、茉莉達が出たら先に入りな。

 浴衣だし、汗凄いだろ?」


「うん、全身汗だく。

 あ、浴衣の写真撮らなきゃ」


再び携帯を取り出し、カメラを起動する。


「…自撮りしてるところ、見られるの恥ずかしいから見ないでね」


「はいはい」


先生は笑いながら、テーブルに置いてあった灰皿を持つと、縁側の方へ向かった。

そして、こちらに背を向けながら煙草を吸い始めた。

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