第87話

「花火も祭りも終わっちゃえば、夏ももう終わりに差し掛かるんだよなあ」


煙草を吸いながら、呟く先生。


「夏の終わりってのは、何でかこう、切ないんだろうなあ」


「それだけ夏を味わったって事なんじゃない?」


「そうかもしんないな。

 私は暑いから夏は苦手だけど、イベント事が多いから嫌いじゃないんだ。

 今年の夏は、結構満喫したなあ」


煙草を咥えたまま、両腕を上へと伸ばす。


「明日は海に行って泳ぐんだよね?」


「あ~、そうだったな。

 白石は水着持ってきたのか?」


伸ばした腕を下げると、あたしの方を見た。


「うん、一応持ってきた」


この前希美と一緒に選んだ水着。


「どんなん着るの?」


「明日になったら解るよ。

 涼ちゃんはどんなの着るの?

 チャラ男はやっぱりふんどし?」


「んな訳あるか!

 つか、チャラ男じゃないっての!

 私も明日になったら解るよ」


吸い終わった煙草を灰皿に捨てると、灰皿をポケットに戻した。


「そろそろ花火も終わりだな」


あ、そうだ。

花火の写真を撮らなくちゃ。

持ったままだった携帯のカメラを起動し、花火を撮ってみる。

撮った写真を確認していると。


「お、上手く撮れてるじゃん」


あたしの携帯を覗き込む先生。


「後で涼ちゃんにも送ってあげるね」


「ありがとな」


花火は止めどなく打ち上がる。

真夏を彩る花々は、あたしの心を染めていく。


ふと、先生の手を見てみた。

そして、そっと先生の手に自分の手を伸ばしてみたものの、そのまま止まってしまう。

どうしようか。


悩んだ末に、その手に触れてみた。

程よく温かな手。

手の甲に自分の手を重ねてみる。


先生は一瞬びっくりして、あたしの顔を見た。

けど、何も言わずに視線を空に戻し、花火を見やる。


すると、先生は指を絡ませてきた。

先生の指に、あたしの指が捕まる。


相変わらず、先生は何も言わない。

こちらを見る事もなかった。

でも、指を離す事はなかった。


鼓動が少し早くなる。

きっと顔も赤いだろうな。

バレないように、気付かれないように、あたしも空を見上げた。

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